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特集

二重ナノリングの
自己形成に成功
ナノ成長グループ
量子ドットセンター
ナノフォトニクスグループ
ナノ成長グループ
間野 高明
黒田 隆
迫田 和彰 小口 信行

 ナノメートルスケールの半導体量子ナノ構造は、その形状に応じて特異な性質を発現します。結晶成長技術の進歩により、量子井戸、量子細線、量子ドットなど様々な構造が提案及び実現され、その一部は既にデバイスへと応用されています。私達は、この中の量子ドットを自己形成的に作製する手法として、「液滴エピタキシー法」を世界に先駆けて提案し、これまで研究を進めてきました。今回、その手法にさらに改良を加えることにより、液体金属の微粒子(液滴)に他の元素を照射するだけで、二重ナノリングという複雑な構造を自然に形成することに成功しました。
 実験は汎用の分子線エピタキシー装置を用いて行っています。初めに、基板表面にガリウム原子を供給すると、ナノメートルサイズの半球状のガリウム液滴が形成されます(図1(a))。従来は、この液滴に非常に強度の高い砒素分子線を照射し、瞬間的にガリウム砒素へ結晶化させることにより、ピラミッド型のナノ結晶を形成させていました。今回はそれより二桁程度弱い砒素分子線を照射することにより、液滴からのガリウム原子の流れ出しを促進させました。流れ出したガリウム原子は、照射される砒素分子線の強度とのバランスによって、主に液滴の縁の部分とその外側の二カ所でガリウム砒素へ結晶化しました。その結果、円対称性に優れた同心の二重ナノリングが形成されました(図1(b))。
 形成した二重ナノリングの性質を調べるために、一つの二重ナノリングからの発光特性の観測を行い、それを理論解析の結果と比較しました。その結果、内側及び外側の二つのリング各々に局在した電子状態があることが理論的に予測され、実際にそれに対応する二つの発光を観測することに成功しました(図2)。この結果は、これら二つのリングがそれぞれ独立した量子ドットとして機能していることを示唆しており、この構造により将来、量子コンピューターへ応用可能な二量子ビットを実現できることが期待されます。

図1  (a)ガリウム液滴及び(b)ガリウム砒素二重ナノリングの原子間力顕微鏡像.
図2  二重ナノリングの(a)発光スペクトル及び(b)電子状態の理論解析結果.


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