NIMS NOW


特集 持続可能な社会形成に貢献する
NIMS発ベンチャー

株式会社アドビック
− 在宅で健康診断できるヘルスケアチップの実用化開発 −
物質・材料研究機構
フェロー
(株式会社アドビック取締役兼業)
株式会社アドビック
代表取締役
堀池
小川 洋輝

 元気で毎日を送るためには予防が大切です。私達は在宅で採取した微量の血液から抽出した血漿成分中の複数の健康マーカを測定するヘルスケアチップを開発しています。その実用化のため2004年9月にNIMS認定ベンチャー「株式会社アドビック」を設立しました。
 まず、在宅で誰にも痛みを感じなく採血できることが重要と考え、無痛針を開発しました。外径0.15mmのステンレス製管を用い、まず細管化時に生じた粗い内壁を超平滑化し、先端の3面を10度に研磨し、最後に電解研磨を施し作製しました(表紙写真下)。平滑な管内壁のため、針が血管に到達すれば自らの血圧により採血が可能になりました。針を確実に血管に導くために、体内を透過しやすい赤外光を穿刺部位に照射し、赤外カメラで得られた血管像からその位置を確認して穿刺します。このとき針の電位を測りますと、血管に到達時に針の電位が変化し、針が血管に到達したことが確認できます。これらの機構によりほぼ100%の採血成功率を得ています。図1は、自らの腕は見ず、ディスプレイを見ながら採血している様子と無痛針により採血された針アセンブリを示しています。
 この採血アセンブリを表紙写真下に示す電気化学バイオセンサが集積されたチップに装着します。これを回転させたときに生じる遠心力で血液をバイオセンサに導くと共に、血球と血漿の分離を行い、最終的には血漿のみがバイオセンサを覆うように分画されます。現在、この血漿中から図2に示しますプロト型測定装置によりpH、Na+、K+イオン、窒素態尿素(BUN)、グルコースが測定可能であり、さらなるセンサ−の安定性、信頼性の向上と共に測定装置の安価・小型化に尽力しています。
 最近、血漿と試薬を混合したときの吸光度の変化から対象とするマーカ濃度を求める比色式のチップも試作しました。本チップは、γ-GTP、GOT、GPTの三つの酵素の肝機能診断項目に加え、総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロールの3項目が測定可能です。一連のこれらのヘルスケアチップの使用で生活習慣病の予防に役立ちます。現在、筆者の一人が健康診断で高脂血症と診断され、処方された薬を投与して中性脂肪値の変化を本機構の医師の承認を得て治癒過程を本チップで6ヶ月間にわたり調べています。節制しているわけでもないので、値は乱高下しながらも低下傾向にあり、自分で診断できることは極めて有用と思っています。
 今後も在宅診断を実現すべく、より多項目が測定できるチップ開発に取り組んでいきます。

図1  血管可視化&検知機構を援用した無痛針による極微量静脈血の採取.
図2  プロト型測定装置.


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