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特集 持続可能な社会形成を支援する
材料基盤情報ステーション

高温構造部材のクリープき裂成長
材料基盤情報ステーション
高温材料グループ
田淵 正明

 高温で長期間使用される機器部材(発電用のボイラやタービンなど)では、時間の経過に伴い変形が進行するとともに、き裂が発生し破壊に至ります。この現象はクリープき裂成長と呼ばれています。クリープき裂の発生時間や成長速度を予測し、部材の補修や交換を行うことが、機器の安全性・信頼性の面から大変重要です。
 クリープき裂成長をモニタリングし、破壊寿命を予測する方法を標準化するための国際共同研究を、VAMAS活動の一つのテーマとして行ってきました。各種耐熱合金を対象とした国際共通試験を行った結果に基づき、ASTM E-1457-00規格「金属材料のクリープき裂成長速度の測定方法標準」が作成されました。延性な耐熱鋼でも、肉厚で複雑な形状の構造部材になると、多軸応力の影響により脆性的なクリープ破壊を起こす場合があります。そこで、構造部材を模擬した種々の試験片(環状切欠試験片や内圧試験片など)を用いた高温破壊特性試験法の国際共同研究を、この5年間実施してきました。現在、この試験法をTTA文書(技術移転文書)にとりまとめ、ISOでの規格化を目指しています。
 最近、火力発電プラントで、高温で長時間使用されたフェライト系耐熱鋼の溶接部に、クリープボイドやき裂が見つかる事例が報告されています。溶接熱影響部に発生するクリープき裂はType IVき裂と呼ばれ(図1)、高温高圧の蒸気が漏れる場合もあることから、重要な研究課題となっています。そこで、昨年新たなVAMAS作業部会を立ち上げ、溶接部におけるボイドやき裂の発生・成長に関する国際共同研究を行うことになりました。
  私達は、これら高温破壊に関するVAMAS活動に中心となって参加し、試験片形状・寸法効果に関する系統的研究を行い、クリープき裂の発生・成長に及ぼす多軸応力の影響について明らかにしてきました。長時間かけて取得したデータ(溶接部の高温破壊特性など)は、データシートやデータベースとして発表する計画です。
 一方で、私達は最近ボロンを添加し窒素を低く抑えることで、高クロム鋼の溶接熱影響部のクリープ強度を改善でき、Type IV き裂による寿命低下を抑制できる可能性を見出しました(図2)。以上の様な経緯をふまえ、私達は今後も様々な高温破壊に関する研究に取り組んでいきたいと考えています。

図1  溶接継手CT試験片におけるクリープき裂成長試験結果(Type IV き裂の成長).
図2  ボロン添加によるType IV き裂の抑制.


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