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特集 持続可能な社会形成を支援する
材料基盤情報ステーション

すきま腐食の発生・
進展機構の解明
材料基盤情報ステーション
腐食研究グループ
深谷 祐一
篠原 正

 ステンレス鋼は代表的な耐食金属材料ですが、NaClなどの塩化物を含む水溶液中では、すきま腐食と呼ばれる腐食損傷を生じることがあります。この腐食形態は、塩化物濃度が低い環境においても発生し、応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking: SCC)の起点にもなるため、実機では大きな問題となっています。しかしながら、すきま内は非常に限られた空間であるので、すきま内部の液性に着目した研究がほとんどなされていないのが実状です。そこで私たちは、ステンレス鋼を光学ガラスに押し付けたすきまを形成させ、そこに発生したすきま腐食をいろいろな手法を用いて実時間観察して、すきま腐食の発生から進展に至る過程の機構解明を試みています。
 図1と図2左図は304ステンレス鋼(18Cr-8Ni鋼)でのすきま腐食を観察した例です。当初矢印の位置に点状の溶解が認められ、その後この溶解部は開口部(試片の縁の部分)付近まで拡大して行きます。さらに溶解部は開口部に沿って回り込むように進展し、開口部付近に黒色の腐食生成物が生成しました(図1中(30分)での赤い楕円部)。SEM観察(図2右図)によると、すきま腐食は、起点となったところで必ずしも深くまで進展するわけではなく、発生と進展とでおのおの機構が異なっていることが確認できました。
 表紙写真下は304ステンレス鋼と観察用の光学ガラスの間にpH試験紙をはさみ、すきま内のpH変化を観察した結果です。当初(0分)すきま内のpHは5〜6(緑色)ですが、時間とともにpHの低い(3〜4あるいはそれ以下、黄色〜だいだい)部分が広がって行く過程が観察できました。すきま腐食は図1、2と同様、開口部付近に起っていて、この部分のpHが試験開始直後から低下しています。また、すきま腐食が起っていない部分でもpHが低下していますが、ここでは304鋼が耐食性を示さなくなるpH(脱不動態化pH、304鋼の場合2.0)より高くなっていることも確認できました。
 こうした観察の解析のほか、数値化モデルを適用するなどして、すきま腐食の発生機構、進展機構の解明に取り組んでいます。

図1  すきま腐食の発生・進展の様子.(30分)での赤い楕円部には黒色の腐食生成物が生成している.
図2  すきま腐食部のSEM 観察結果(左図の緑線で囲った部分).


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