NIMS NOW


特集 持続可能な社会形成を支援する
材料基盤情報ステーション

長時間クリープ強度評価による
高温プラントの信頼性向上
材料基盤情報ステーション
クリープ研究グループ
木村 一弘

 近年、二酸化炭素ガス排出量の低減とエネルギー資源の節約を目的として、石油、石炭、天然ガス等の化石燃料を多量に消費し、二酸化炭素の主要排出源である火力発電プラントの高効率化が進められています。蒸気タービンの蒸気温度と圧力を高めることにより発電のエネルギー効率を向上させることができるため、高温・長時間クリープ強度に優れた耐熱鋼の研究開発が活発に行われ、高強度耐熱鋼を用いた高効率火力発電プラントが建設・運転されています。高温圧力容器部材は一般に、10万時間(約11.4年)という長時間クリープ強度に基づいて設定された許容引張応力を参照して、肉厚等を算出して設計されます。そのため、高温プラントの安全性を確保するためには、長時間クリープ強度を精度良く評価することが重要です。
 NIMSでは、実用耐熱金属材料の10万時間を超える長時間クリープ試験データを取得することを目的としたクリープデータシートプロジェクトを昭和41年(当時は科学技術庁金属材料技術研究所)から推進しています(NIMS NOW、2004年6月号)。取得したクリープ試験データはクリープデータシートとして発行し、国内外の600を超える企業、大学、学協会、各種試験研究機関等に送付するとともに、NIMS物質・材料データベース(http://mits.nims.go.jp/)としてインターネットにより情報を発信して、高温材料の研究開発や高温プラントの保守・点検等に活用されています。
 クリープデータシートの作成と併せて、取得した長時間クリープ試験データと長時間クリープ試験材の組織変化等を解析し、クリープ強度の発現機構や材質劣化挙動、クリープ強度の解析評価法の高度化等に関する研究を進めています。その結果、最近開発された9〜12%Crフェライト耐熱鋼の長時間クリープ強度を、従来の手法で短時間クリープ試験データから予測すると、過大評価してしまう危険性が認められました。長時間クリープ強度の過大評価は、高温構造部材の設計基準である許容引張応力の過大設定につながるため、十分な安全性を確保することができません。そこで、0.2%耐力の1/2を指標として短時間側と長時間側に分ける領域分割解析法を開発し、提案しました(図)。領域分割解析法による解析評価結果に基づいて、「発電用火力設備の技術基準の解釈」に規定された許容引張応力の見直しが行われ、高温プラントの安全性・信頼性向上に貢献しています。

図  従来解析法(赤)と領域分割解析法(青)によるクリープ強度解析・予測結果の比較.


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