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特集

準結晶表面の原子像とステップ構造
材料研究所
反応・励起のダイナミックスグループ
H.R. Sharma
下田 正彦

 準結晶と呼ばれる固体には、通常の結晶のような周期性がありません。しかし原子の配列はでたらめではなく準周期と呼ばれる特殊な秩序構造が存在します。ただ周期性がないため構造の決定が大変難しく様々な手段を用いて調べる必要があります。私達は、走査型トンネル電子顕微鏡(STM)で表面の原子像を観測することで準結晶の構造を解明しようとしています。
 図1はアルミニウム・銅・鉄からなる準結晶合金の表面の原子像です。準周期構造の特徴である正5角形に配列した原子や、それらがより大きな正5角形を作っている様子が捉えられています(円内)。表面のもっと広い範囲に注目すると、階段状の構造(ステップ)が見られます(図2)。ステップは通常の結晶でも見られますが、この準結晶の場合、高さの異なる大小2種類のステップが現れます。それぞれの高さをLとSとすると、L:Sがほぼ黄金比(1.618...という無理数)になっています。また、LとSの積み重なりはLSLLSLSL...となり、これはフィボナッチ列(Lから出発しL→SL、S→Lという置き換えを繰り返して生成される配列)と呼ばれるものです。黄金比やフィボナッチ列は準結晶の構造と密接に関係することが判っています。
 構造モデルによれば、準結晶は原子が密集したブロックとそれを隔てる大小のギャップからなると見なせます。上述の原子配列およびステップの特徴を詳しく調べたところ、準結晶ではギャップの幅が特に大きくかつブロックの密度が高いところが表面になると考えれば全ての事実が説明できることが判りました。これにより、構造モデルの正しさだけでなく、表面とバルクの構造の関係が明らかになりました。
 これらの成果をもとに、現在私たちは準結晶の表面に様々な金属の薄膜を作ることを試みています。これは、そのままでは準結晶とはならない物質を、準周期の下地を利用して準周期構造に並べ新奇な物性を発現させようという試みです。本研究は、物質研究所 山本昭二フェロー、東北大学 蔡安邦教授らとの共同研究によるものです。

図1  AlCuFe準結晶の表面の原子像.
図2  AlCuFe準結晶の表面のステップ.


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