NIMS NOW


特集 持続可能な社会形成を支援する
ナノテク支援プロジェクト

放射光NIMS専用ビームラインの開放と
ビームラインスタッフによるナノテク研究支援
物質研究所
超微細構造解析グループ
物質・材料研究機構
フェロー
田中 雅彦
吉川 英樹
中沢 弘基

 放射光施設スプリングエイト(SP-8)のNIMS専用ビームラインは年間マシンタイムの20%を日本のナノテク研究のために開放し、ビームラインスタッフが測定指導・介助・解析および論文公表の支援を行っています。
 スプリングエイトは世界第一級の高輝度ビームを発する第三世代放射光施設ですが、その中でNIMSビームラインはX線回折(XRD)および各種X線分光法(XPS・XAS・XFS)など物質・材料研究が要請する多様な測定法に対応するために、ビームの平行性が高くかつ広いエネルギー範囲(1〜60keV)のX線を自在に利用できるように設計され、必要な測定機器が整備されています。そのため、ナノテク支援プロジェクトを開始してから支援した研究課題は総計41課題、約2500時間におよびます(2002〜2005前期)。
 一例として、カーボンナノチューブ(CNTs)で微細配線を施すために必要な触媒の条件をX線光電子分光(XPS)によって調べた結果を紹介します(図1)。NTTおよびNTTアドバンステクノロジと当機構との共同研究によるものです。CNTsはFeやCoの金属微粒子を触媒とし、炭化水素ガスから気相成長します。Si基板上に金属微粒子を配置させれば、金属微粒子間をCNTsが架橋したナノ配線が実現するはずです。そこで、高温下での触媒金属/Si基板の関係を系統的に高エネルギーXPSで観察しました。その結果、CoもFeも共に初期状態は酸化物で、基板の温度を上げると金属化し、触媒活性を示しました。FeはSiO2層がある限りは金属状態で触媒活性で、SiO2層の枯渇と共にシリサイド化して触媒不活性になります。CoはSiO2層があっても局所的にシリサイド化が進行して触媒不活性になりました。これらの観察結果から、SiO2層の存在とその膜厚が触媒金属の触媒活性を大きく左右していることが明らかとなり、カーボンナノチューブによる微細配線技術の重要な手がかりを得ました(図2)。本ビームラインは今後も、独特の機能を生かして、日本のナノテクノロジー研究の支援活動を続けます。

図1  Si 1sおよびCo 2pの温度による光電子スペクトルの変化.
図2  光電子スペクトルの温度変化から推定されるSi基盤上の化学状態(Thin=1nm Thick=100nm).


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