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特集 持続可能な社会形成を支援する
ナノテク支援プロジェクト

ナノテク支援研究成果
超高圧電子顕微鏡ステーション
古屋 一夫

 ナノテクノロジーでは、原子・分子を操るための技術と同時に、「原子・分子を高精度・高速に観察・分析する技術」が不可欠でその成否がナノテクノロジーの発展を左右するといって差し支えありません。透過型電子顕微鏡は、分解能が0.1nmの領域に達し、容易に原子・分子を観察できるため、そのナノテクノロジー分野における重要性はますます増大しています。文部科学省は平成14年度から、透過型電子顕微鏡のうち、特に装置規模が大きく一般の研究機関では導入が難しい超高圧電子顕微鏡の共同利用を目的とした「ナノテクノロジー総合支援プロジェクト・超高圧電子顕微鏡による解析支援」を開始しました。当機構はその中で、「その場・高分解能・分析電子顕微鏡による解析支援」の幹事機関として、ナノテク対応の特徴ある3台の超高圧電子顕微鏡を外部開放し、利用の機会を提供しています。
 図1および表紙写真下は大学に対する支援の一例で、半導体試料にイオン打ち込みをした試料を焼結した際に生じる再結晶化領域の構造についての観察例です。再結晶化領域には様々な欠陥が生じてしまうため、デバイスの微細加工にはそれらの欠陥の構造を詳細に理解することが不可欠であり、かつ再結晶化領域は表面から厚さ数百nm程度の領域に形成されるため、電子顕微鏡観察が最も有効です。本支援においては主に高分解能像観察を行い、様々な入射方位から撮影した高分解能像と電子線回折像を用いて数原子層毎に周期的に繰り返される欠陥の3次元構造を明らかにしています。
 現在、本解析支援は3年目を迎え、運営、活用も軌道に乗り、多くの研究者の参画を得ると共に研究成果が出始めています(図2)。同時に本解析支援がナノテクノロジー研究者の皆様に広く認知されることによって、図3に示したように多岐にわたる分野の研究課題の提案がなされるようになり、先端の装置だけでなく新しい技術・手法の開発の必要性も感じています。そして、本解析支援の研究実績と今後を展望する中で、より多くの研究者が電子顕微鏡技術を利用して、ナノテクノロジー分野で大きな成果を上げるための仕組み、進むべき技術の方向について、さらなる検討をしていきたいと思います。

図1  支援によって得られた観察結果の例:半導体試料にイオン打ち込み後、焼結した際に生じる再結晶化領域の構造.(a)回折像と(b)高分解能像 (c)母相と(d)逆位相境界相の拡大図とフーリエ変換像.
図2  ナノ支援申請・実施の件数と構成(16年度).
図3  ナノ支援 支援分野の構成.


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