NIMS NOW


特集 ナノテクノロジーの基盤を支える
最先端電子顕微鏡技術

集束電子線による1nmの
微細加工
PHOTO PHOTO
超高圧電子顕微鏡ステーション
その場解析グループ
超高圧電子顕微鏡ステーション
田中 美代子
古屋 一夫

 最近、電子顕微鏡試料の作製に広く用いられている集束イオンビーム(FIB)装置においては、電子顕微鏡観察を行う領域を保護する目的でタングステンカルボニル(W(CO)6)やフェナントレン(C14H10)などのガスをFIBのビームで分解し保護層を堆積させることが日常的に行われています。これはビーム誘起蒸着と呼ばれる手法の実用例の一つで、材料表面に有機金属ガスなどの原料ガスを導入し、そこに細く集束したイオンや電子線を照射することによって原料ガスを分解することで、局所的な蒸着を行いナノ構造を作製します。
 電子線を用いた誘起蒸着(EBID)では、電子がより細く収束できることから、より微細な構造を作製する手法として研究が進められており、私達は透過型電子顕微鏡(TEM)の高い加速電圧により得られる電子線を用い、これまでの常識を超える1nmレベルのナノ構造作製の研究を行っています。
 図1に本研究に用いている超高真空透過型電子顕微鏡(JEM-2000VF)の外観写真を示しました。通常のTEMカラムを超高真空対応にしたのに加え、試料室に多くのポートを備えており、様々な実験に対応することが出来ます。W(CO)6をSi基板近傍に流し、位置を制御しながら電子線を照射することで得られたナノドットの高分解能電子顕微鏡観察結果(a、b)と、大角度走査透過暗視野法による観察結果(c)を示します(図2)。図中の白い線が交差する位置に5秒の照射時間でナノドットを作製しました。通常の高分解能電子顕微鏡像ではもはや観察することが困難なサイズですが、原子番号の違いにより強いコントラストが得られる大角度走査透過暗視野法では、はっきりと重い元素が存在することが確認できます。
 この技術により、触媒粒子を1nmレベルで配置するなど、多くの可能性が期待できます。また、これら微細構造の評価には、やはり高いレベルの電子顕微鏡技術が必要であり、これら双方を発展させていくことでより大きな成果が期待できると思います。

図1
図2
図1  実験に使用した超高真空透過型電子顕微鏡の外観.
図2  超高真空電子顕微鏡中で作製された、ナノドットの高分解能電子顕微鏡像(a、b)と、大角度走査透過暗視野法像(c).


line
トップページへ