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特集 ナノテクノロジーの基盤を支える
最先端電子顕微鏡技術

TEM-EELSによる
先端材料解析研究
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超高圧電子顕微鏡ステーション
高分解能解析グループ
木本 浩司

 材料や素子のマクロな特性が、極微小領域における元素分布や化学結合状態に依存している例は多々あります。たとえば半導体素子に用いられる絶縁膜では、基板との「界面」が素子の特性を決定づけます。超高圧電子顕微鏡は結晶構造を直視しうる空間分解能を既に有していますが、元素や化学結合を解析する「識別能」は十分ではありません。私達は透過型電子顕微鏡における電子エネルギー損失分光法(TEM-EELS)で、元素や化学結合状態をサブナノメーターレベルで解析しています。
 元素分析の典型例として、図1に窒化珪素に酸化物を添加した焼結体の元素マッピング結果を示します。TEM像は本来白黒ですが、Si,N,Oの各元素により非弾性散乱された電子をエネルギー的に選択して観察し、RGB各色に振り分けてカラー画像にしました。添加した酸化物が結晶粒界に在ることがわかります。元素マッピングの分解能は現状では0.5nm程度です。これは対物レンズの色収差による電子光学上の問題と、非弾性散乱過程が局在しないという量子力学における「不確定性原理」から決まっています。
 化学結合状態を調べるためには、電子構造を解析し得るだけの高いエネルギー分解能が求められます。私達は電界放出型電子銃と独自に開発した計測・解析ソフトウエアを用いて、従来型TEMでの世界最高のエネルギー分解能(0.23eV)を実現しました。さらに位置分解EELSという独自の方法でサブナノメーターレベルの計測をしています。図2に半導体素子用絶縁膜の解析例を示します。ここでは0.28nm毎にAlやSiの結合状態を明らかにしました。第一原理計算と組み合わせ、Al原子の配位数が深さによって変化していることや、Si基板が酸化していることなどがわかりました。このほかにもTEM-EELSによる物質解析手法の開発と、各種材料への応用研究を行っています。詳細はhttp://www.nims.go.jp/aperiodic/hrtem/recent/eels-e.htmlをご参照下さい。
 本研究の一部は、NEDO/MIRAIプロジェクトおよびナノテクノロジー総合支援プロジェクトで行われました。

図1
図2
図1  Si3N4焼結体の元素分布像観察.
図2  半導体素子用絶縁膜の解析例.


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