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透過型電子顕微鏡を用いた原子配列の直接観察は、材料の内部構造を原子レベルで評価できる極めて有力な実験手法です。この方法は高分解能電子顕微鏡法と呼ばれ、未知構造物質の解析や、複雑な微細構造、変調構造の解析にも大きな威力を発揮します。私達は約0.1nmの非常に高い分解能を有する超高分解能超高圧電子顕微鏡を用い、ナノエレクトロニクスの材料候補として大きな注目を集めている銅酸化物高温超伝導体や巨大磁気抵抗マンガン酸化物等の強相関電子系材料について、その複雑な超構造や微細構造の解析を行っています。ここではその一例として、コバルト系層状銅酸化物の解析を紹介します。 表紙の写真下は、組成式CoSr2(Y,Ce)sCu2O5+2sで表される一連のコバルト系層状銅酸化物Co-12s2相(s=1-3)について、加速電圧820kVで得られた高分解能電子顕微鏡像です。黒い点が各構成原子に対応しています。最も明るいコントラストの層がCo原子を含む電荷貯蔵ブロックで、この間隔がs値の増加と共に増大していることが明瞭に確認できます。また、図(a)に示すように全ての相で鏡面対称関係にある二つのCoO4四面体鎖が層内で交互配列し、1212相(s=1)では層間方向にも規則配列していることが確認されました(図(b))。さらに、電荷貯蔵ブロック間距離が長くなる1222相(s=2)および1232相(s=3)では、この層間方向の配列が不規則化することが明らかになりました(図(c))。コバルト系層状銅酸化物では中性子回折実験によりCoO4四面体鎖の存在が示唆されていましたが、このように高分解能電子顕微鏡法を用いることで初めてその複雑な配列様式が明らかになりました。 この結果はまた、層状銅酸化物における基本構造と電荷貯蔵ブロックの積層様式の関係を示すもので、新しい超伝導材料の設計、開発にとって有用な結果であると考えられます。私達は高分解能電子顕微鏡法の解析技術を更に高度化し、ナノテクノロジーの進展に貢献していきたいと考えています。 |
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