NIMS NOW


特集 ナノテクノロジーの基盤を支える
最先端電子顕微鏡技術

極低温ローレンツ電子顕微鏡
を用いた材料研究
PHOTO PHOTO PHOTO
超高圧電子顕微鏡ステーション
高分解能解析グループ
浅香 透
木本 浩司
松井 良夫

 磁性体の内部は小さな「磁区」と呼ばれるものの集合体になっています。磁区は一つ一つが小さな磁石で、それが磁性体内部で最も安定な状態になるように配列しています。この磁区構造は磁性体の応用の分野では特に重要で、磁気記録媒体などでは磁区そのものを一つのデータビットとして利用しています。つまり、高密度記録にはどれだけ小さい磁区構造が形成できるかが一つの鍵になります。また、そのような微細な磁区構造を高分解能で観察することが重要となってきています。
 そこで、私達は先端磁性材料の磁区構造をローレンツ電子顕微鏡で調べる研究を行っています。ローレンツ電子顕微鏡は透過型電子顕微鏡の一種で、観察試料に入射させる電子が強磁性体試料の内部で受けるローレンツ力によって偏向することを利用して、その内部の磁区構造を観察する装置です。特徴としては、ナノオーダーの高い空間分解能を有することや、実時間での動的観察が可能であることが挙げられます。
 図1は超巨大磁気抵抗効果(CMR)を示すマンガン酸化物((La,Sr)3Mn2O7)の17Kでのローレンツ電子顕微鏡像です。図中の白と黒の帯状の領域が共に磁区を表していて、一つ一つの磁区は矢印で示したように隣同士で反平行の磁化方向を持ちます。この磁化方向は結晶構造(正方晶)のc軸方向です。さて、この物質は温度変化させるとその磁化方向をc軸(低温相)からab面内(高温相)へ90°回転させますが、図2および表紙写真上が高温相(60K)のローレンツ電子顕微鏡像です。図1と同様に反平行の磁区が互層をなしていますが、その方向はc軸と垂直になり、幅は8〜50nmと非常に狭くなっております。このようなナノオーダーの幅をもった磁区構造が形成されたのは、この物質の結晶構造と電子の軌道状態に関係していると私達は考えています。なお、この研究はロスアラモス国立研究所の木村剛氏、東京大学の十倉好紀氏との共同研究で行われました。

図1
図2
図1  (La,Sr)3Mn2O7の17Kでのローレンツ電子顕微鏡像.
図2  60Kでのローレンツ電子顕微鏡像.


line
トップページへ