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特集

世界初、地上の宇宙環境を利用した
タンパク質結晶作製実験
− 高品質の結晶がえられることが判明 −
強磁場研究センター
磁場科学グループ
強磁場研究センター
若山 信子
木吉 司

 生命現象の解明、新薬の開発、病気の新規治療法の研究には酵素やホルモンなどのタンパク質分子の立体構造解明が不可欠です。現在、大部分のタンパク質の構造はX線構造解析で求められていますが、いかにして高品質の結晶をつくるかが構造解析のボトルネックとなっています。宇宙環境で結晶を作ると重力の影響をうけず品質のよい結晶がえられるといわれますが、宇宙実験は多くの予備・準備実験が必要で、費用がかかり、誰でも何時でも手軽に実験することは出来ません。
 宇宙ステーションの内部が微小重力になるのは、地球の万有引力と周回飛行によって生じる遠心力とがちょうどつり合うからです。鉄が磁石に引き寄せられるように、すべての物質は磁石に引き付けられたり反発したりします。水やタンパク質など大部分の物質(反磁性物質)には磁石に反発する力が作用します。この反発力は非常に弱いのですが、強力な超伝導磁石で重力に等しい上向きの磁力をかければ、地上の研究室でも微小重力環境を発生させることができます。
 当機構は、谷本能文教授(広大)、原田一明氏(産総研)と協力して、超伝導磁石が提供する微小重力環境(μG)が高品質のタンパク質結晶を作るのに有効か、実証実験を世界で初めて行ないました。図の写真が実験に使用した超伝導磁石で、矢印が示す箇所の内部に微小重力環境が発生します。超伝導磁石中の微小重力環境および磁石の外で同時にタンパク質結晶(斜方晶リゾチーム)を作成する実験を計3回行ない、いずれの場合も微小重力環境で作成した結晶が、磁石外の通常重力場(1G)で作成した結晶にくらべて高品質であることが明らかになりました。この研究は、手軽に利用できる地上の微小重力場を使用すると、品質のよいタンパク質結晶が得られることを世界ではじめて実証したものです。今後、多くのタンパク質で、地上の微小重力環境の効果を確認する予定です。


図   微小重力環境を提供する超伝導磁石.


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