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特集

細胞培養下疲労試験装置の開発
− 生きた細胞の存在下で
   生体用材料の耐久性評価が可能に −
生体材料研究センター
機能再建グループ
丸山 典夫
山本 玲子

 金属材料は強度・靭性・剛性・導電性などに優れているため整形外科領域においては人工関節、顎骨再建プレートなどに使用されています。また、循環器・消化器系疾患では血管、食道などの狭窄部位を拡張するためにステント(金属チューブ)に使用されています。これらの生体用材料は力学的信頼性の点から金属材料以外のもので代用することが現状では困難です。そのため、生体内における金属材料の疲労特性など強度特性の評価は非常に重要です。
 これまでの生体用金属材料(ボーンプレートや脊柱固定器具等)の疲労試験は擬似体液中で行われていました。こうした試験環境では、生体の主要な構成要素である細胞が存在せず、生体環境に対応した正確な強度評価を行うことができませんでした。
 今回開発した装置では、表面に細胞を付着させた生体用材料を細胞培養容器内に挿入し、30℃〜45℃の範囲で温度を一定に保持した培養液に浸して、細胞培養を行いながら長期間の疲労特性を測定することが可能です。
 細胞培養液の供給には、培養液を回収しながら細胞培養容器内に新しい培養液を流速制御して供給する方法を用いています(図1)。この手法により、細胞培養液の供給速度を幅広く変えることができ、より生体内に近い環境中で材料の疲労試験が行えるようになりました(図2)。
 本装置によって、生きた細胞の存在下で長期間にわたる疲労特性を評価できるため、生体材料の耐久性データの信頼性が上がり、生体用デバイスの設計基準を確実なものとするばかりでなく、信頼性・安全性の高い生体用材料の開発に明確な指針を与えるものと期待されます。


図1  細胞培養下疲労試験装置.


図2
上 
細胞培養容器と試験片.
疲労試験中に試験片表面で増殖したL929細胞(青色部分).
応力振幅:180MPa.
繰り返し数:3.6x106(3週間).


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