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特集 持続可能な社会形成を支える
ナノテク・材料研究 X

実用化に近づくニオブ・アルミ線材
−核融合、加速器、高分解能NMRに向けて−
 
超伝導材料研究センター
金属線材グループ
竹内 孝夫
飯嶋 安男
菊池 章弘
伴野 信哉

 超伝導ニオブ・アルミ線材は既存材料のニオブ・スズ線材に比べて高磁場まで超伝導を保ったまま高密度で電流を流すことができ、また機械的ひずみが加わったときにもその電流特性が劣化しにくい利点を有することから、20テスラ以上の高磁場で運転される高分解能NMRや、巨大な電磁力が加わる核融合炉や加速器などの大型超伝導コイルの線材として開発が進められてきました。
 ニオブ・アルミ線材の実用化のため(1)ニオブとアルミの複合体である前駆体線の長尺化、(2)これを約1900℃まで通電加熱したのち急冷処理して、ニオブにアルミが25原子%まで均質に固溶した過飽和固溶体Nb(Al)ssの製造(表紙写真下)、(3)これからニオブ・アルミ化合物を比較的低温で一様にマッシブ変態させる熱処理技術を確立しました。これらにより、結晶粒の粗大化を抑制しつつ、化学量論比からの組成のずれという状態図上の問題点も解決できました。最近、大型ビレットの静水圧押し出しを実施し、線径が1.35mmまで無断線で単位長が2.6kmの前駆体線を伸線加工することに成功しました。このビレットサイズは核融合炉や加速器用途に必要とされる0.7mm線径の素線に換算するとほぼ10kmに相当します。また、得られた長尺前駆体線を急加熱急冷処理できる大型装置も導入し、数100mに渡って試運転を実施し、順調に稼働することを確認しました。変態熱処理に関しては、延性を有するNb(Al)ssに積極的に塑性ひずみを導入することにより、昇温速度のバラツキに起因する超伝導特性変動の抑制に成功しました。これにより大型コイルの熱処理で不可避的に生じる局所的な昇温の遅れに対して、コイル全体で均質な超伝導特性が確保できました。
 次に、ニオブ・アルミ線材実用化で最重要課題の安定化材の複合技術について紹介します。急冷後にCuをクラッド加工で連続的に複合した平角線材(図a)は、均質磁場発生に適しており、NMRに実用されようとしています。800mの製造実績があり、実用化に最も近い線材といえます。一方、核融合炉や加速器では丸線の安定化材複合線が求められています。reel-to-reelイオンプレーティング成膜法と電気メッキの組み合わせにより、Cuと線材との界面密着性の大幅な改善に成功しました(図b)。また、高温でNbと反応しないことを利用してAgをはじめから安定化材として断面内に含む線材(図c)やこれを素線に利用した大電流容量導体の試作(図d)にも成功しました。今後、コイル試験と通電試験により長尺・安定化線材としての総合性能試験を実施する予定です。


図   安定化材が複合されたニオブ・アルミ線材の断面.
(d)の隙間部分は冷媒を通す空隙.


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