NIMS NOW


特集 持続可能な社会形成を支える
ナノテク・材料研究 X

進展するMgB2線材の研究開発
超伝導材料研究センター
酸化物線材グループ
熊倉 浩明
北口 仁
松本 明善

 4年前に日本で発見されたMgB2超伝導体は、金属系の超伝導体でありながら超伝導になる温度が39Kと高く運転温度が液体ヘリウム温度に限定されないこと、線材化が容易であること、さらに原料価格が低廉なこと、などから応用上有望であると期待され、線材化の研究が世界的に盛んに行われています。特に、最近の冷凍機の性能向上から、20K前後の温度で運転される冷媒不要の各種の超伝導マグネットに有望であると考えられています。
 私達は、これまでに主として原料粉末を金属管に充填して加工・熱処理を行う、パウダー・イン・チューブ(PIT)法でMgB2線材の開発を進めてきました。最近では、このようにして作製したMgB2線材の超伝導特性も向上してきており、実用化の可能性が高まってきています。実用上重要な超伝導特性の一つに上部臨界磁界(Bc2)があります。Bc2とは、超伝導体が外部の磁界にさらされた場合に、超伝導状態を保つことのできる最高の磁界のことで、超伝導マグネットなどへの応用において重要な特性となります。図1に、5モル%SiC添加MgB2テープのBc2の温度依存性を示します。温度が低下するとともにBc2は上昇し、20Kでは10テスラに達します。このMgB2線材の20KにおけるBc2は、現在最も広く使われている実用Nb-Ti超伝導線材の液体ヘリウム温度(4.2K)におけるBc2に匹敵します。このことは、現在、液体ヘリウムを用いて運転されているNb-Ti超伝導マグネットをMgB2マグネットに置き換えれば、冷凍機等を用いて20K近傍で簡便に運転できる可能性のあることを意味します。
 さらに最近では、東海旅客鉄道(株)、(株)日立製作所と連携して、100mを超える長尺線材を作製し(表紙写真上)、これらの線材を用いて小型コイルの試作を進めています。図2に試作したMgB2ソレノイドコイルの一例を示します。このコイルは、外径48mm、高さが50mmのまだ小さなものですが、それでも20Kの温度において1テスラを超える磁界の発生に成功しており、有望な結果が得られています。今後はこれまでの成果を発展させ、超伝導特性の一層の向上と更なる長尺化に取り組みます。


図1  MgB2線材の上部臨界磁界の温度依存性.
図2  試作したMgB2ソレノイドコイル.


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