NIMS NOW


特集 持続可能な社会形成を支える
ナノテク・材料研究 X

水和コバルト酸化物超伝導体における新展開
− 超伝導と磁性の関わり −
超伝導材料研究センター
新物質探索グループ
室町 英治

 水和コバルト酸化物超伝導体はNIMSで発見された新しい超伝導体ですが、第一報[Nature 422、53(2003)]は既に250回を超える引用回数を数えています。この間の世界中の研究者の精力的な取り組みによって、様々な知見が得られ、超伝導の理解が進みつつあります。また、その中でNIMSの研究陣は大きな貢献を果たしています。
 水和コバルト酸化物超伝導体はソフト化学を用いることによってのみ合成できますが、NIMSにおける最近の研究から、超伝導体の正しい組成はNax(H3O)z(H2O)yCoO2(x ≈ 0.35、z ≈ 0.24、y ≈ 1.19)であり、Na+イオンが占めるべき席の一部が、オキソニウムイオン(H3O+)で置換されていることが明らかになりました。この結果、Coの価数は、Na量のみを使って計算された値よりかなり小さくなります。Coの価数は超伝導の理論的取り扱いにおいて重要なパラメーターですから、これは無視できない意味を持ちます。
 実は、オキソニウムイオンは単にCoの価数に影響するだけでなく、系の物性を支配する極めて重大な役割を果たしています。図はCoの核四重極共鳴(NQR)の共鳴周波数をパラメーターとして系の相図を描いたものです。この相図によれば、共鳴周波数が上がるにつれて、超伝導転移温度は上昇します。しかし、ある限界を超えると超伝導は消失し、代わりに磁性相が顔を出します。超伝導と磁性の強い関わりや非従来型の超伝導発現機構が強く示唆される結果ですが、実はオキソニウムイオンの濃度こそが磁性相の出現を支配する本質的なパラメーターであることが、ごく最近明らかになりました。
 水和コバルト酸化物は超伝導の深い理解のための鍵を握る物質ではないかという予感があります。今後の物理、化学両面からの研究の一層の進展に期待したいと思います。本稿は多数の共同研究者との仕事を筆者の責任でまとめたものです。特にNQRについては、京大理学部石田氏、吉村氏らとの共同研究に依っています。

図   NQR周波数をパラメーターとして描いた、水和コバルト酸化物の相図.白丸は実験点.NQR周波数はオキソニウムイオンの濃度にともなって増大することが分かっており、横軸はオキソニウムイオン濃度に関係している.


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