|
|
厚さ1ナノメートルの粘土層状珪酸塩を高分子マトリックス中に分散制御した複合材料、粘土−高分子ナノコンポジットは、従来型のコンポジットと比べて軽量で優れた力学特性やガスバリヤ性を示します。この技術では、スメクタイト(粘土鉱物の一種)や膨潤性合成フッ素マイカが使用され、様々な高分子材料でナノコンポジット化が試みられています。 層状珪酸塩にはスメクタイトのような粘土鉱物以外に数多くの仲間があります。例えば、天然に産出するマイカはスメクタイトと類似の結晶構造をもっていますが、一般にスメクタイトに比べ、粒子サイズの大きいものが得られます。またスメクタイトは水などを層間に取り込んで膨らむ性質(膨潤性)や層間陽イオンを他の陽イオンと置き換える性質(イオン交換能)をもっていますが、天然マイカは膨潤性が認められず、イオン交換能も殆どないと見なされていました。そのため、これまで天然マイカがナノコンポジットに利用されることは全くありませんでした。 今回、私たちは天然マイカを特殊な条件下で有機処理し、高分子中でマイカ層を一層一層剥離させることに成功しました。図1は天然マイカ/エポキシコンポジットの透過型電子顕微鏡写真(マイカ層の断面方向を観察)です。従来型コンポジットの場合、剛直な板状マイカ(マイカシートが数十〜数百層積層した状態)がエポキシ中に分散していますが(図1a)、ナノコンポジットではマイカ層が剥離して厚み1nm(一層分の厚み)で断面長さが十数ミクロンに及ぶ高いアスペクト比(縦横比)の珪酸塩ナノシートがエポキシマトリックス中に分散しています(図1b)。 また、私たちは膨潤層と非膨潤層が規則的に積層した構造をもつ混合層珪酸塩を合成して、その膨潤層のみを剥離させることで数層一組の珪酸塩ナノシートを高分子中に分散させることに成功しました(図2)。この混合層珪酸塩は、原料や合成条件を変えることでその化学組成や積層構造などが制御できます。実際に、膨潤層(スメクタイト)と非膨潤層(タルク)からなる混合層珪酸塩を合成し、その膨潤層に有機修飾剤を挿入して有機無機複合体を調製しました。次いでエポキシと混合し、エポキシの硬化反応を利用してエポキシと親和性のよい有機修飾層を剥離させました。この場合は、3層一組の珪酸塩ナノシートがエポキシマトリックス中に均一に分散しています(表紙写真下)。これらのナノコンポジット技術は様々な高分子に幅広く展開できます。今後は珪酸塩ナノシートの高次構造を制御して高性能、高機能性の高分子複合材料を提案していきたいと考えています。 |
|
|