NIMS NOW


特集 持続可能な社会形成を支える
ナノテク・材料研究 IV

高分子系における熱電材料の開拓
− 無機系に無いものを求めて −
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エコマテリアル研究センター
環境エネルギー材料グループ
東北大学大学院
理学系研究科
東北大学
多元物質科学研究所
篠原 嘉一
平石 謙太朗
中西 八郎

 熱電現象とは、荷電キャリア(電子、正孔、イオンなど)の移動にともなってエネルギーが輸送される現象のことです。
 熱電現象は100年以上前に金属で発見され、現在は金属間化合物、ホウ化物、酸化物などの無機系で材料研究が行われています。代表例はBiTe系、PbTe系の化合物です。フロンなどの地球温暖化物質を用いない冷蔵庫、LSI冷却素子、超小型ヒートポンプや、身近な廃熱(体温を含む)を利用した発電への応用が進められています。ただし、製造エネルギー、安全性、コスト、資源、分離回収性などを総合的に考慮したライフサイクルコストを考えますと、多くの無機材料系はトータルバランスが崩れています。トータルバランスに優れた材料として、また構造の自由度の高い材料として高分子系に注目しました。
 熱電材料としては、導電率が高く、熱起電力(材料に温度差を与えた時に生じる電位差。1K当りの熱起電力をゼーベック係数と呼ぶ)の大きな材料が求められます。高分子の場合にはこれらの物性は基本的に分子構造、分子量、分子の配列、ドープ量で決まります。無機材料との大きな違いは、分子内および分子同士の3次元構造は不明確であること、分子内および分子間の導電機構の詳細は不明であること、化学ドープであること、すなわち添加剤は単に主鎖近傍に留まっているだけで不安定なこと、添加剤の位置は不明であること、物性の定量測定が難しいことなどです。構造の自由度が高いことの裏返しとして、実に多くのことがブラックボックスの中にあることに気づきました。
 NIMSと東北大学多元物質科学研究所(多元研)との人事交流の一環として行った研究ではポリチオフェン系を中心として、分子構造や分子量の制御、添加剤の安定化について検討を進め、他の高分子よりもゼーベック係数が大きくかつ安定なポリチオフェン系を開発しました(図参照)。ただしBiTe系と比較すればゼーベック係数が1/10と小さく、実用材料の性能レベルには届きません。
 現在は多元研との連携ラボ制度を活用しながら、ブラックボックス部分の解明と高性能化のための材料開発を進めています。

図
図   合成したポリチオフェンの導電率とゼーベック係数の関係.
ポリアセチレンとポリアニリンの値は文献値.


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