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特集 持続可能な社会形成を支える
ナノテク・材料研究 IV

携帯機器への応用を目指した
燃料電池用白金・酸化セリウム電極の開発
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エコマテリアル研究センター
環境エネルギー材料グループ
高橋 基
森 利之

 固体電解質に高分子を用いる燃料電池は、高分子形燃料電池と呼ばれ、携帯電子機器や自動車への応用が検討されています。
 特に、携帯電子機器用電源として燃料電池を用いる場合、燃料としては、メタノールなどを用いることが検討されています。ただし、燃料にメタノールを用いると、白金電極表面上で、一酸化炭素が発生し、白金電極を被毒するため、燃料電池の出力も大幅に低下します。この問題を解決するために、白金・ルテニウム(Pt・Ru)電極が提案され、携帯機器用燃料電池の電極として開発が進められています。
 私たちは、希少資源である貴金属の使用を減らす観点から、Pt・Ru電極に代わるPt・酸化セリウム(CeO2)電極の開発に取り組んでいます。私たちの電極の特徴は、電極に用いたCeO2が、ナノサイズ球状粒子(平均粒径:40nm)であることに加えて、電極反応機構が通常のPt・Ru電極と異なることにあります。定電位における電流値の時間変化を測定することで、電極反応機構を調べることができますが、通常の電極上では、表面反応が律速であるのに対して、Pt・CeO2電極上では拡散が律速であることが分かっています。この結果は、私たちの電極上では、CeO2から発生する酸素が、白金上に吸着した一酸化炭素を酸化除去する過程が、重要であることを示唆しています。図には、市販の電極で最も高い性能を示すジョンソン・マーシー社のPt・Ru電極と私たちが作製したPt・CeO2電極の活性化エネルギーを示しました。現状では、市販の電極が低い活性化エネルギーを示していますが、拡散律速のPt・CeO2電極は、CeO2からの酸素発生をより活発にさせる工夫をすることで、市販の電極を下回る活性化エネルギーを示すようになると期待しています。
 一方、電極性能評価の中で重要な点は、一酸化炭素の酸化が始まる電位(オンセットポテンシャルと呼ばれる)が、低いことです。この電位が高いと、電極上で大きな過電圧が生じ、電池の出力が低下します。市販の電極のオンセットポテンシャルは、0.46Vであるのに対しPt・CeO2電極のオンセットポテンシャルは0.50Vと、わずかに高い値を示しますが、Pt・CeO2ナノクラスターの作成などにより、市販の電極同等またはそれ以上の性能を示す電極の開発を目指して、高性能化に取り組んでいます。

図
図   電極反応の活性化エネルギーの比較.
電解質:0.5モル硫酸+0.5モルメタノール
電位:0.6Vvs.reversible hydrogen electrode


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