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特集 持続可能な社会形成を支える
ナノテク・材料研究 III

ナノ窒化物制御による
金属組織の高温熱安定化
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現 三菱重工業株式会社
旧 超鉄鋼研究センター
耐熱グループ
材料基盤情報
ステーション
クリープ研究グループ
超鉄鋼研究センター
耐熱グループ
種池 正樹
澤田 浩太
阿部 冨士雄

 高温高圧の蒸気でタービンを回して発電する火力発電では、蒸気をさらに高温高圧にすると発電効率が向上し、燃料が少なくて済むのでCO2を削減できます。それには、高温で金属組織が安定で強度の高い耐熱鋼(高温用鉄鋼)が必要です。材料の母地に粒子を分散させて耐熱鋼を強化する手法は効果的ですが、高温使用中の拡散によって粒子同士が凝集し粗大化すると粒子の間隔が大きくなり強度は低下します。私達は、高温強度の高い耐熱鋼を開発する目的で、ナノサイズで高温使用中に凝集粗大化しないような熱的に安定な粒子を探索しています。
 火力発電用のフェライト系耐熱鋼には、高温酸化に耐えるためクロムを最大で12%、高温強化のためにタングステン、バナジウム、ニオブ、炭素、窒素などが少し合金化されています。炭化物や窒化物(炭素や窒素と金属原子との化合物)の粒子は強化に有効ですが、クロム炭化物は粗大化し易いのに対し、バナジウムやニオブの窒化物はナノサイズで粗大化し難い特性があります。従来鋼中の粒子の主体はクロム炭化物で、高温使用中に粗大化するため高温強度に限界がありました。
 本研究では、9%クロム耐熱鋼(窒素 0.05%)中の炭化物や窒化物の量を熱力学ソフトを用いて計算し、炭素濃度を0.02%以下に低くするとクロム炭化物よりもバナジウムやニオブの窒化物の量の方が多くなることがわかりました(図1(a))。そこで、炭素濃度を変えた試料を作成し、650℃でクリープ試験(一定温度、一定荷重の下で、変形速度や破断するまでの時間を測定)を行いました。その結果、ナノサイズのバナジウムやニオブの窒化物だけを分散させると、変形し難くなりクリープ破断時間(破断強度)が大幅に向上することがわかりました(図1(b))。図2は熱処理後の結晶粒界の電顕写真で、従来鋼には100〜300nmのクロム炭化物が分布していますが、クリープ試験中にさらに粗大化します。ナノ窒化物強化鋼は、ナノサイズの窒化物が密に分布し高温でも安定です。

図1
図2
図2  従来鋼中のクロム炭化物と、本研究で開発した
極低炭素鋼中のナノ窒化物分散.
図1  9%クロム耐熱鋼の650℃、140MPaにおけるクリープ破断時間の炭素濃度依存性.図(a)は、熱処理後の粒子の種類と量の計算値.


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