マクロな材料の塑性変形は、局所的な変形の積み重ねの結果として生じます。多くの材料は、粒界や析出物などの不均一なナノスケール組織で構成されており、それらが局所変形挙動に大きな影響を与えます。局所変形の機構が明らかになれば、それを制御する組織をデザインすることが可能となり、実部材の特性改善につながります。
私達は、局所領域の変形挙動を解析する手段として、ナノインデンテーションと呼ばれる手法を応用してきました。ナノインデンテーションとは、すい形の圧子をμN(1gfの1万分の1)単位の微小荷重で材料の表面に押し込み、その際の圧子の侵入深さを測定する新しい技術です。材料の表面に形成されるくぼみの大きさは10～100nmのオーダーで、結晶粒の内部や析出物単体の硬さを知ることができます。さらに進んだ技術として、透過型電子顕微鏡(TEM)内でインデンテーションを行ない、その変形挙動をその場で直接観察する技術が開発されています。塑性変形の素過程は、転位と呼ばれる格子欠陥が材料中を運動する挙動と理解されています。ナノインデンテーションとTEMを組み合わせることにより、局所変形機構の解明が飛躍的に進むと期待されています。
図は、観察結果の一例です。変形の様子はビデオに記録されます。図は、ビデオから特徴的なフレームを抜き出して示したものです。材料はマルテンサイト鋼で、結晶粒界が観察されます（(a)の矢印）。図の左上に圧子が確認でき、右下の試料に向かって押し込む配置になっています。(b)では圧子と試料の接触部付近から粒界に向かって移動する転位が観察されます。さらに押し込むと、転位は粒界付近で一旦止まり（図(c)）、その後、一斉に隣接する結晶粒内へと進んでいく様子が観察されています（図(d)）。転位の運動が粒界付近で妨げられることは、粒界が変形に対する大きな抵抗になっていることを明瞭に示しています。これは、多結晶体の変形機構を理解する上で、極めて重要な知見です。（この成果は、カリフォルニア大学バークレー校のProf. J.W. Morris, Jr.との共同研究で得られたものです。） |
