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特集 持続可能な社会形成を支える
ナノテク・材料研究 II

新しい物質状態
− 超伝導磁束量子系の理論研究 −
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計算材料科学研究センター
強相関モデリンググループ
胡 暁

 固体は温度上昇で液体に融解します。この日常的な現象が量子力学に支配される超伝導状態の磁場応答と深く関わり、興味深い物理を見せます。超伝導状態に磁場を印加すると、超伝導電流が磁場を遮蔽しようとして、ミクロな渦を作ります。磁場方向に並んだ渦糸(磁束量子線)が互いに斥力を及ぼし合い、磁束線格子が形成されることを最初に理論化した業績でAbrikosov博士が2003年のノーベル物理学賞を受賞しました。実は、渦糸格子が温度の上昇によって渦糸液体になり、潜熱を伴う熱力学1次相転移が観測されたのはここ10年のことです。また、この際超伝導特性も同時に失われることが、私達の大規模計算機シミュレーション等で分かって来ました。
 一方、高温超伝導体では超伝導面と半導体面がナノメートルスケールで交互に積み重ね、超伝導面間は量子トンネル効果(この場合、ジョセフソン効果と呼ばれます)で結合し、多重ジョセフソン結合が自然に出来ています。磁場をこれらの面に平行に印加しますと、渦糸は超伝導面を避け、半導体層に入ります(図1)。渦糸間の相互作用は面間と面内では非常に異方的であること、渦糸の面垂直方向の運動や揺らぎに対して超伝導面がピン止め効果を及ぼすことから、ジョセフソン渦糸系が取り得る状態と融解プロセスが非常に豊富です。
 私達の最近の計算機シミュレーションによると、全ての半導体層に渦糸が入る程度の強磁場下では、それぞれの面内規則配列が互いに自由にスライドできる状態が中間温度領域で現れます。この際、渦糸格子は2回の連続相転移を経て融解します。また、密度汎関数理論により、ジョセフソン渦糸が密集する半導体層が1層おきに現れ、層内では液体的な短距離秩序を示す smecticと呼ばれる状態が現れる磁場・温度領域の存在も判明しました。この場合の融解過程は1次相転移と2次相転移からなります(図2)。
 これらの新しい物質状態に関する知識は、高温超伝導固有ジョセフソン結合を利用したテラヘルツレーザー発振開発研究に生かされます。また、これらの研究は、DNA操作に使われる脂質/DNA超格子や、高温超伝導の母物質に見られる電荷ストライプ状態にも示唆を与え、裾野の広がりが期待できます。

図1
図2
図1  高温超伝導体とジョセフソン磁束量子.
図2  ジョセフソン磁束量子の磁場・温度相図.太線と細線は不連続と連続相転移を示す.


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