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特集 持続可能な社会形成を支える
ナノテク・材料研究 II

単一有機分子伝導特性
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計算材料科学研究センター
第一原理物性グループ
計算材料科学研究センター
奈良 純
大野 隆央

 近年、実験技術の進歩によってナノサイズの物性に注目が集まってきています。その中で精力的に調べられているものの一つに電子輸送現象があります。ナノサイズの電子輸送現象は、最近研究が盛んになってきている分子デバイス、ナノワイヤによる伝導などと関連して非常に興味が持たれ研究が進められてきています。しかしながら実際上は扱える系や、コントロール出来る系は少ないため、試行錯誤で調べられているのが現状です。そのため、要求される性質を持つ系や、扱おうとする系の特性などが予想できれば今後の発展のためには非常に有用であると考えられます。私達はナノワイヤの電気伝導特性を知る典型例として金電極に挟まれたベンゼンジチオール分子の伝導特性を散乱理論に基づいて計算しました。
 結合構造についてはontopサイト結合、bridgeサイト結合、hollowサイト結合の3通りを考えました(図1)。これらの接点構造に対して電気の流れやすさの指標であるトランスミッションを計算したところ図2のようになりました。ontopサイト結合では比較的幅の狭い3つのピークが−1eV〜−2eVの間にあるのに対し、bridgeサイト結合では−3eVに幅広の高いピーク、−1eVに低いピークが見えます。また、hollowサイトでは−2.0eVを中心に非常に拡がったピークが1つだけあります。このように、結合構造に依存して伝導特性が非常に異なっていることがわかります。さらに、これらに対する分子軌道の寄与についても調べました。図中にある番号は分子軌道につけた番号で、エネルギーの低い方から何番目の分子軌道かを示しています。トランスミッション曲線のピークがどの分子軌道に起因するかを示しています。図にあるとおり、同じ分子軌道でも結合構造によってその寄与が大きく変わることが見て取れます。特に、19、20番目の分子軌道についてはontopサイト結合では伝導特性に対して十分な寄与があるのに対し、他の二つの結合構造ではその寄与がほとんどありませんでした。つまり全ての分子軌道が伝導特性に寄与するのではないことを意味します。
 以上のように複数の構造に対して伝導特性を計算することにより、そのトランスミッションや分子軌道の寄与が電極と分子との結合構造に極めて依存することがわかりました。このことは分子デバイスを研究する上で、分子固有の性質のみならず、接点構造を考慮することが非常に重要であることを示します。

図1
図2
図1  ベンゼンジチオール分子と金電極の構造.
図2  トランスミッション曲線.


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