NIMS NOW


特集 持続可能な社会形成を支える
ナノテク・材料研究 II

Phase-field法によるFePt微粒子規則化のサイズ依存性解析
− 磁気記録媒体のナノ組織制御への指針 −
PHOTO
計算材料科学研究センター
粒子・統計熱力学グループ
小山 敏幸

 近年ハードディスクの大容量化が急務となっており、この実現には磁気記録面上で情報を保持している最小領域をナノスケールにまで小さくする必要があります。しかしこの領域を小さくし過ぎると熱振動の影響で記録データが消えてしまうことが知られています。そこで、記録領域を小さくしても記録データが消えない材料が求められており、その有力候補として、L10規則構造(FeとPtが1原子層置きに交互に積み重なった構造)を持つFePt相がクローズアップされ、現在世界的に研究が進められています。FePt相はL10規則構造である時に優れた磁気記録保持能力を持ちますが、FePt相がナノスケールの微粒子になると、規則構造が崩壊し、不規則相(FeとPtが結晶内でランダムに並んでいる状態)へ変化して磁気記録保持能力が激減することが、最近当機構のナノ組織解析グループにて実験的に見出されました。これは磁気記録高密度化実現にとって深刻な問題で、FePtはどの程度小さなサイズまで、L10規則構造を維持できるかを究明することが大きな課題として浮上してきました。本研究は近年、材料の内部組織形成をモデル化する強力な計算手法として注目を集めているPhase-field法(材料の組織形態を連続体モデルに基づき表現し、複雑な組織の時間・空間変化を発展方程式を用いて解析する方法)を利用して、この課題に対し1つの解答を得ようと試みた成果です。
 図1は粒子サイズを変えて、FePt相の安定状態を計算した結果で、条件は温度873Kおよび粒子組成Fe-50at%Ptです。円い部分がFePt粒子で、粒子内の黄色がL10規則化の程度を表しています。粒子が小さい時には不規則状態(黒)であり、粒子が大きくなると規則状態(黄)が安定となって、およそ直径d=2〜4(nm)付近が境界に対応していることがわかります。図2は直径dに対する規則度の変化を計算したグラフで、完全に不規則化する時のdはおよそ2nmであり、磁気記録材料として利用可能である限界が約2nmであることがわかります。以上のように、ナノ組織制御への指針を理論的な考察を基礎に定量的に押さえていくことが、これからのナノスケールにおける材料およびデバイス設計に不可欠と考えています。

図1
図2
図1  FePt微粒子の規則化に対するPhase-field計算.
図2  FePt相の規則化に対するサイズ依存性.


line
トップページへ