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特集

ビスマス系高温超伝導体における
テラヘルツ発振現象の観測
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若手国際研究拠点
ナノマテリアル研究所
ナノ量子エレクトロニクスG
王 華兵
羽多野 毅

 周波数30THz超の赤外光と0.3THz未満のマイクロ波の狭間に取り残されたテラヘルツ(THz)光は、汎用の光源がないために利用が遅れてきました。しかし、分子識別性のある分光技術として、また超高速の通信技術として、高いポテンシャルを秘めており、21世紀に至って爆発的に研究開発が進められています。その多くがパルス光源である現在、もし小型軽量で、エネルギー効率に優れた単色連続波光源が開発されれば、テラヘルツ光の応用は急速に進むものと期待されます。交流ジョセフソン効果として知られる超伝導素子(2mVが1THzに相当)にチャンスが与えられていますが、1接合からの出力が、ナノ・ワットと小さく、光源として利用するためには多数の素子を共振させる必要があります。
  私達は、当機構で1988年に発見されたビスマス系高温超伝導体(BSCCO-2212)にジョセフソン素子が、結晶の並進対称周期1.5ナノメートルで積層アレイを作っていることに着目して発振素子の開発を行っています。接合間が強く結合し、さらに結晶の完全性に起因して、全接合が位相を揃えて共鳴動作し、レーザーのように高強度で発振することが期待されます。
  アレイ状に積層した接合を同期させるために素子の幅を短く・奥行きを長く設計しました。それに層平行磁界を印可したときにできる磁束格子の運動を幅の狭い素子のエッジで整列させることで、全接合の同期動作を図りました。さらに、このような固有ジョセフソン素子を集積化出来る唯一の微細加工技術である両面加工法により、40個並列に集積して(図1)その特性を評価した結果が図2の電流−電圧特性です。電圧状態、即ち発振状態に達する接合の数が増加するのに従い、素子の電流ステップの高さが直線的に増加することが確認され、素子の内部で共鳴発振状態が実現されていることが見出されました。共振のパワーは、数十マイクロワットに達しています。さらに集積化を2桁程度高めることが可能であることから、可変長連続波THz光源開発の見通しが明確になりました。

図1
図2
図1  1μmx30μmの固有ジョセフソン接合(IJJs)を40スタック集積した素子(各スタックは60接合なので、合計2400接合が集積されている).
図2  共鳴発振を示す素子の電流−電圧特性(挿入図は、磁束格子が素子端に整列して同期して発振しテラヘルツ光を放射する素子動作の概念図).


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