NIMS NOW


特集 持続可能な社会形成を支える
ナノテク・材料研究 I

準結晶分散マグネシウム合金の創製
− 新しい高強度マグネシウム合金 −
PHOTO PHOTO
材料研究所
高比強度材料グループ
東北大学
多元研
Alok Singh
蔡 安邦

 環境問題に対応するため、車両の軽量化を通じた燃費向上および排出ガス低減は有効な手段の一つです。このためには軽量高強度材料の開発が不可欠です。
  私達は準結晶の研究で、Zn-Mg-Y系合金において準結晶相とMg相が共存することを明らかにし、通常の鋳造法でMg基地に準結晶を分散させる組織を得ることができました。準結晶は比較的高い融点を有し、周期性をもたないため一般の化合物に比べて硬くて脆い特徴をもっています。上手く組織を制御することにより、耐熱性に優れた準結晶分散マグネシウム合金を作製できると考えました。
  図1に鋳造したMg93Zn6Y1合金を250℃で押出加工を施した後の200℃での引張試験の結果を示します。比較のために市販の押出材のAZ61(6重量%のAlと1重量%のZnからなる工業用Mg合金、通称AZ61)の結果も併せて示します。いずれの試料も最高引張強度を経て一定の伸びに達した後破断します。押出したままの準結晶分散合金はAZ61と同じ最高引張強度を示しますが、その後の引張強度の減少の度合いが小さく、軟化しにくいことを図1から見て取れます。400℃で熱処理を施した準結晶分散合金にはさらに高い引張強度を示します。この試料の高温引張試験後の透過型電子顕微鏡写真を図2に示しており、黒く見える多くの細かい準結晶粒が基地のMg結晶粒に分散している様子が観察されます。矢印で記されている準結晶粒は向きの異なる二つのMg結晶粒の境界に存在し、Mg結晶粒の成長をピン留めしています。一般に結晶粒が大きくなると強度が低くなります。高温における軟化現象はMg結晶の粒成長に由来するので、準結晶粒は高温の軟化現象を防ぐと考えられます。前記の400℃の熱処理は粒界にある準結晶を安定化させたため、高温強度の向上をもたらしたと考えられます。第一段階として、準結晶による分散強化が認められました。現在、鋳造のみ、押出のような2次加工をせずに、高強度の準結晶分散Mg合金も作製しています。
  本研究はトヨタ自動車の加藤晃および渡邊真析両氏との共同研究によるものです。

図1
図2
図1  押出による準結晶分散Mg合金(Mg93Zn6Y1)および AZ61の引張試験カーブ.
図2  押出した準結晶分散Mg合金を400℃で熱処理を施した後、200℃で引張試験を行った後の透過型電子顕微鏡写真.


line
トップページへ