NIMS NOW


特集 持続可能な社会形成を支える
ナノテク・材料研究 I

電子機器へのカーボンナノチューブ
プローブの実用化
材料研究所
基礎物性グループ
唐 捷

 カーボンナノチューブ(CNT)は直径が約1nm、長さが約1〜10μmという極微細の円筒形物質(筒状炭素分子)です。その優れた機械的及び電気的性質によって、高分解能分析機器の電子源や高分解能・長寿命のリソグラフィ探針への応用が期待されています。そのためには、簡易な方法で再現性良く、また形状制御も容易な作製法が必要です。
  私達は、米国ノースカロライナ大学との共同研究により、電気泳動法により簡単かつ再現性高くナノチューブチップを作製することに成功し(図1)、CNTの精密装置への応用の道を開きました。今回の研究では、実際に高分解能原子間力顕微鏡(AFM)探針と電子線源(電子エミッター)用のCNTチップを試作してみました。
  電気泳動法による作製技術は、従来の方法に比べて二つの際立った特徴を備えています。一点目は、特殊な環境が不要(水を溶媒とし、室温・大気中で作製)で装置の簡単さ及びプロセスの単純さにより、低コストでCNT探針を作製できる点です。従来の方法の多くは偶発的でしたが、この方法で初めて自動化も可能となりました。二点目は、純度が高く、配向性が高い上にCNT探針の長さの制御が可能である点です。
  今回試作したCNT-AFM探針(表紙写真下および図2)は、汎用AFM探針と比べ高い分解能を持つほかに、より長時間の使用が可能で、高い耐久性を持つことが分かりました。
  また、電気泳動法によるCNTチップは、電界放出エミッターとしても利用可能な先端形状を持つことが示され(図3)、また安定性にも優れていることが分かりました。さらに、低い真空度でも使えることも分かりました。
  電気泳動法によるチップ・探針の作製法は、必要に応じて様々なナノデバイスに利用することが可能であり、また大量生産に向く技術として有望です。現在、既に商品化も始められようとしています。
  私達は、探針として新しいナノ構造の作製・解析を行うための手法を提供し、高分解能であるという特性を活かしたナノ分析デバイス実現に向けての研究開発を進めています。加えて生物医療分野での応用展開を目指しています。

図1
図
図1  電気泳動法によるナノチューブの作製.
図2  汎用AFMチップ上に作製したカーボンナノチューブ.

図
図3  ナノチューブ電子エミッターの実験の配置と電子線イメージ.


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