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特集 学際領域研究開発III
“超分子材料科学”の進歩

自己組織化を利用した機能性材料の設計
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物質研究所
機能モジュールグループ
Dirk G. Kurth

 人工素材において、適応性、刺激に対する感受性、多機能的な特性および自己修復性を実現することは、超分子化学および物質科学における大きな研究課題の1つとなっています。デバイス製作に自己組織化の原理を適用することは、(従来の逐次的な製作に対する)パラレル製作、(分子的な)寸法制御、構成要素の配列、修復機構など、既存の製造技術を遥かに超える可能性を有します。しかし、現在の人工素材は、単一の機能を提供するに過ぎず、急速に損耗し、最終的には廃棄されてしまいます。
  先進素材は、多機能性、適応性、長寿命性、環境調和性を通じて、生活の質の向上に貢献します。このような技術は、21世紀中、長期にわたって科学技術と経済の発展に大きな影響を与えると確信できます。しかし、この分野における進展のためには、革新的かつ学際的なアプローチが必要で、従って、超分子パラダイムを先見性を持って推し進めることは、化学、技術、物理学における古典的なアプローチを超えた学際的な研究・教育プログラムを促進するインセンティブを提供することになります。
  私達は最近、新たな先進素材の開発に向けて自己組織化のより良き理解へ貢献することを狙いとして、学際的かつ国際的なプログラム「機能モジュールグループ」を立ち上げました。本グループでは、良好に定義された構造体(ナノ構造体、単分子層、薄膜、メゾ相、結晶性固体など)の中で、構造性および機能性モジュールを予測可能な方法で組み合わせ、位置決めし、また秩序付けるための自己組織化戦略を開発研究しています。
  さらに、組み立てる構造体に遷移金属イオンを組み込むことによって、得られる超分子モジュールには、技術的に重要なデバイスや素材として有用な磁気的、電子的、光学的、反応的な特性を持たせ、このアプローチにより、分子レベルからマクロな長さスケールに至るまで、構造と機能を広範に制御できるとともに、合成における単純性、多様性、柔軟性が得られます。
  例として、電位差を与えることによって透明から青色に変化する適応性薄膜被覆層の作成結果を示します。活性を持つ構成要素は、「ポリオクソ・メタレート・クラスター」と呼びますが、水をベースにした塩の自己組織化で容易に作り出す事ができます。このクラスターは酸化状態で透明ですが、還元すると電子状態の変化により濃青色となります。被覆層は、ポリオクソ・メタレートおよび商業的に入手可能なポリ電解液による自己組織化で形成され、静電気的な相互作用で、この構成要素は、導電性の基板へ接着されます。そして図に示すように、電位変化に応答して色を可逆的に変化させることができるのです。このような超薄型の適応性被覆層は、建物の空調や自動車のサンルーフに使用できます。以上のように、自己組織化を巧みに利用することで、今後、様々な機能を持った実用性の高い材料が開発できると期待されます。

図1
図  上が被覆層の模式図(左)と被覆層の吸光度(右).下が、活性を持つ構成要素で、中心にある核はユーロピウム、その周りを酸化タングステンが囲むクラスター構造(左)と窓の青色を示す代表的な写真(右).


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