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特集 学際領域研究開発III
“超分子材料科学”の進歩

無機の超分子ポリマー
− DNAに匹敵する細くて長い
           酸化物ナノファイバー −
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物質研究所
高分子性酸化物グループ
一ノ瀬 泉

 超分子と言えば、有機分子や高分子、あるいはタンパク質などの生体分子が連想されます。これらの分子は、二次的な相互作用で会合し、一つの分子には見られない機能を生み出します。超分子の概念は、最近、金属錯体や無機クラスターにも広がりつつあります。私達は、そのような物質群の一つとして、酸化物ナノファイバーを研究しています。
  金属イオンの水溶液のpHを上げていくと、一般に水酸化物の沈殿が生じます。しかしながら、銅やカドミウムの塩では、ある一定の濃度とpH条件で、あたかも高分子のようなナノファイバーが形成されることが発見されました。図1には、硝酸カドミウムの水溶液中で形成されたナノファイバーの電子顕微鏡写真を示します。ナノファイバーの幅は、1.9 nmに過ぎません。一方、その長さは、数マイクロメートルにも及び、大腸菌のプラスミドDNAのサイズ(およそ6000bp、bpとは塩基対の数であり、1bpは約0.34nmに対応)に匹敵します。
  酸化物ナノファイバーの内部構造は、高分解電子顕微鏡の観察から明らかになりつつあります。硝酸カドミウムから得られたナノファイバーでは、六角形の水酸化カドミウムのクラスターが水素結合で無限に積み重なった構造が推定されています(図2)。色素分子の吸着実験から、ナノファイバーの表面が著しく正に荷電していることが確認されました。その電荷密度は、表面のカドミウム原子のおよそ3分の1であり、六角形のクラスターの頂点の数に対応しています。最近、このようなナノファイバーが、短いDNAフラグメントの効率的な抽出のために、非常に有用であることが見出されました。
  酸化物ナノファイバーは、1次元の超分子材料を構築するための重要な構成要素と考えられます。私達は、有機分子や高分子との精密なナノ複合体を設計することで、新しい超分子材料の創製に挑戦しています。

図1
図2
図1  水酸化カドミウムのナノファイバーの電子顕微鏡写真(右上は、高分解能像).
図2  ナノファイバーの推定構造(黄色は、正電荷を帯びたカドミウム原子を示す).


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