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特集 学際領域研究開発III
“超分子材料科学”の進歩

生命の仕組みを理解し、その機能を材料へ
− 有機高分子錯体と
      タンパク質の不思議な関係 −
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物質研究所
機能モジュールグループ
樋口 昌芳

 プラスチックやゴムなどの有機高分子は、私達の生活にとても役立っているのに、ごみ問題などから、最近「必要だけれどあまりたくさん作ってほしくないもの」のような扱いを受けているような気がします。一方、タンパク質やDNAなども有機高分子ですが、誰も「タンパク質なんかいらない」なんて言わない。こんな両極端な評価をされるのも有機高分子ならではかもしれません。つまり、有機高分子は組成、形状、物性、機能などに関して、極めて多様性に富んだ物質群なのです。
  生体内の光合成や呼吸反応では、有機高分子であるタンパク質内部の微量の金属種が反応活性中心として決定的な役割を果たします。有機高分子がつくる三次元空間内に精密に金属種を配置させた時、高効率的電子移動やエネルギー変換が達成されます。生体に似たシステムを人工的に作れば類似の機能あるいは生命を超える機能が得られるのではないか?と、多くの高分子錯体(有機高分子と鉄や銅などの金属イオンとの複合物質)が合成されています。
  私達は、従来にない機能(電子・光・磁気・触媒)を有する有機/金属ハイブリッドナノ材料の創製を目的として、有機ユニットと金属ユニットをナノサイズで複合化させた様々な高分子錯体の開発を行っています。例えば、樹木のように高分子鎖が枝分かれを繰り返し外側へと広がっていく構造を有する樹状高分子では、高分子内部に形成される電子密度勾配に従って、金属イオンが段階的に集積される現象を見出しています(図1)。あるいは、有機ユニットと金属ユニットが自己集合することで、金属イオンが高分子主鎖に精密に導入された高分子錯体が形成されます(図2)。高分子内部に位置と個数を精密に制御して金属イオンを導入することで、有機ユニットと金属ユニットの異なる物性の相乗作用が期待され、有機EL素子、センサー、太陽電池、ドラッグデリバリーなど、様々な機能材料への応用が期待されます。

図1
図1  樹状高分子における金属イオンの段階的集積挙動.
図2
図2  有機物と金属種の自己集合による高分子錯体の形成.


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