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特集 学際領域研究開発III
“超分子材料科学”の進歩

サッカーボール分子からなる超分子
− 超分子を素材とする導電性新素材の開発 −
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物質研究所
超分子グループ
中西 尚志

 1nm(10-9m)レベルで微細構造を作成する技術であるナノテクノロジーにおいて、分子を組み立てる技術である有機合成化学あるいは超分子化学の手法は、ボトムアップアプローチにおいて必要不可欠であるといえます。機能性分子をエレクトロニクスデバイスとして扱うためには、意図する分子配列構造での固体基板上への固定化が求められます。エレクトロニクス分子として注目したのは、カーボンナノクラスターであるフラーレン(C60)です。C60は、直径1nmのサッカーボール型のπ共役系分子で、ナノ化学の代表的な物質として取り扱われています。C60は一分子で6電子の電子貯蔵能があり、その優れた電子授受特性を利用する応用研究が盛んに行われています。今回、フラーレンに脂質部位を導入することで、自己組織化機能をもつフラーレン誘導体を新たに合成しました(図a)。このフラーレン誘導体を溶液中に分散させると、直径100nm程度の球状超分子組織体の形成が、透過型電子顕微鏡(TEM)(図b)、走査型電子顕微鏡(SEM)により確認できました。SEM観察では内部の空孔も確認できており、球状超分子組織体は二分子膜構造の閉じた球状の小胞体つまりベシクル構造であると予想されます(図c予想模式図)。ベシクル内部空間は、様々な機能性物質を取り込むことが可能であり、フラーレンを素材とする0次元新規導電性ナノカプセルの創生を目指し研究を進めています。
  フラーレン誘導体の溶液を基板上へ塗布し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いると、球状超分子組織体に由来する半球状の構造が観察できるのと同時に、基板表面に数百nmまで伸びる、数nm間隔のストライプ模様が観察できます(表紙AFM像参照、図d予想模式図)。このストライプ構造は、分子間および分子と基板表面間との自己組織化的な相互作用により形成されるものと予想されます。脂質部位の形成する絶縁層により区分されたフラーレン自己組織化1次元導電性ナノワイヤーとしての機能評価並びに詳細な分子配列構造に着目し、現在研究を展開しています。今後、様々な分子情報を持ち、実際に材料として応用可能な超分子新素材の開発を目指して研究を進めていきます。本研究は、マックスプランク微粒子界面研究所のDr. Dirk G. Kurth(物質研究所・機能モジュールグループディレクター併任)との共同研究により行われています。

図1
図  フラーレン誘導体の分子構造(a)、球状超分子組織体のTEM像(b)、球状超分子組織体の予想模式図(c)および基板上でのAFM像の分子配列予想模式図(d).


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