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特集 学際領域研究開発III
“超分子材料科学”の進歩

超分子の技で分子をつかむ
− ナノの世界のUFOキャッチャー? −
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物質研究所
超分子グループ
有賀 克彦

 分子一つを捕まえ、観察し、機能させるのは、ナノテクノロジーの究極技術の一つです。ただ、人工の機械で小さな分子を摑むのは、きわめて難しい。分子を捕まえることができるのは、分子そのものだけかもしれません。つまり、分子を何とか動かして、目的とする相手の分子を捕まえるようにするのです。私達は超分子の技を使って、次のような方法で、分子を摑みました。
  まず、図Aのような分子を開発しました。これは、環状構造から四つの腕が出ていて、そこに板のような構造がついています。この板には工夫がしてあり、水によくなじむ面と水をはじく面を裏表に持っています。この分子を水面上に置くと、まるでアメンボのように足を広げて広がります(以降はアメンボ分子と呼びましょう)。多数のアメンボ分子を水面上に並べて膜(これは、単分子膜という超分子の構造の一つです)にして圧縮すると、アメンボ分子はなるべく占有面積を小さくしようとして形を変え、下に閉じた空間を作ります(図B)。これは、広げていた手の指をまげてとじる動作に似ています。
  実験では、捕まえられる分子(ゲスト分子といいます)として光を発する分子を水中に溶かしておきました。アメンボ分子の膜を圧縮しながら水面から出てくる光を観察すると、膜を圧縮したときに光が強くなり、膨張させたときには光が弱くなることがわかりました。これは、膜の圧縮・膨張に応じて、アメンボ分子が光る分子を摑んだり放したりしていることを示しています(図B)。
  さて、ある分子が特定の分子を認識することは、超分子科学の中では大変重要なことで、センサーなどに応用されたりしています。これまでの分子認識は、目的の分子が用意した構造にある確率で嵌まり込むのを待つという“受け身の機能”でした。それに対して、私達が開発したアメンボ分子は、動的に分子を捕まえたり放したりする“意思が反映された働き”をします。もっと分子の設計を工夫すれば、多くの混ざり物の中から望みの分子だけを、好きなときに摑んでくることができる“UFOキャッチャー”のような分子ができるかもしれませんね。

図1
図  アメンボ分子の構造(A)と分子を摑む(放す)機能(B).


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