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特集 学際領域研究開発II
“ナノ・IT分野”における技術革新

単一ナノ構造を伝わる
信号計測の技術革新
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ナノマテリアル研究所
ナノ電気計測グループ
中山 知信

 次世代の情報通信を支えるナノエレクトロニクスデバイスでは、原子レベルの精密さを持つナノ構造を利用します。これによって、集積回路密度の飛躍的向上だけでなく、ナノスケールで顕在化する量子現象を利用した量子演算素子、超高感度ナノセンサーなど、新規機能デバイスの実現が期待されます。具体例として、新原理デバイス「原子スイッチ」の驚くべき特性が最近実証されました(前頁記事参照)。また、生体に見られる複雑な機能性ネットワークをナノテクノロジーの活用によって構築・制御すれば、高度に並列化された情報処理と学習機能を特徴とする脳型コンピュータの実現にも道が拓けるでしょう。
  このようなナノエレクトロニクスの発展と高度情報処理技術の革新には、新たなナノスケール信号計測基盤技術の確立が必要不可欠です。そこで、私達は、単一ナノ構造を伝わる信号を計測するために、多探針走査型プローブ顕微鏡を開発しました(表紙写真下)。
  私達の多探針走査型プローブ顕微鏡は、原子レベルの精度で位置が制御され、独立に駆動される2〜4本のプローブを装備しています。計測したい構造や材料に対して必要な数のプローブを接触させ、その物性や機能を明らかにすることができます。すでに私達は、次に示すようなナノスケール電気特性計測を通じて、その優れた能力を確認しています。たとえば、Si(001)表面上の多数の金属ナノワイヤーの中から、計測対象とする1本のナノワイヤーを、多探針走査型プローブ顕微鏡によって任意に選び出しました。このナノワイヤーに対して2本の独立制御プローブを正確に位置決めし接触させ電気抵抗を計るという作業を繰り返しました。これによって、単一ナノワイヤー電気抵抗の長さ依存計測という、これまでにない重要な計測を実現しました。
  ところで、多探針走査型プローブ顕微鏡で利用できるプローブ数に原理的な上限はありません。より多くのプローブを利用する多探針走査型プローブ顕微鏡技術を、上のような無機ナノ構造にだけでなく、蛋白質や細胞などの複雑な生体材料にも適用すれば、新概念の情報処理技術の開発にも役立つはずです。たとえば、細胞の中で実現している高度な情報処理の仕組みを解明・応用する研究開発は重要です(図)。私達は、現状の多探針走査型プローブ顕微鏡による生体材料の信号伝達ナノ計測と並行して、さらなる計測技術の高度化に挑戦しています。
  私達は、単一ナノ構造を伝わる信号計測のために開発した多探針走査型プローブ顕微鏡技術をさらに発展させ、ナノ・IT分野の進展に貢献して行きます。

図1
図  多探針走査型プローブ顕微技術を応用した細胞計測.


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