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特集 学際領域研究開発I
“ナノ・バイオサイエンスの新展開”

細胞の多い臓器を治療する
− 組織アレイの構築 −
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生体材料研究センター
人工臓器材料グループ
大塚 英典

  現在、幹細胞や初代細胞を体外で安定に培養し、センサーとして用いたり、3次元構造体(スフェロイド)を形成させて再生医療に展開することが重要な課題となりつつあります。本研究では、孤立細胞に比べ生理機能が生体組織により近いスフェロイドを作成し、ナノ構造化材料との複合化により栄養血管を誘導した再生臓器の開発を目的としています。通常、スフェロイド培養には煩雑な手法が必要であり、細胞集団の形と大きさを自在に制御しながら簡便かつ大量に均一なスフェロイドを培養する技術は皆無です。
  私達は、基盤表面に親水性高分子の周密ブラシ構造を構築した後に半導体技術としての微細加工を行うことによって、様々なパターン化表面を作成しました(表紙写真下)。この様なパターン化表面に苗床の役割を果たす内皮細胞を播種し、一定の細胞パターンを形成させた後に肝・膵や軟骨細胞などの初代細胞を播くことによって、効率的に細胞スフェロイドアレイを構築する世界初の技術を開発しました(図1)。作成した肝臓スフェロイドは1ヶ月以上にわたり、肝特異的機能(アルブミン産生とP450酵素活性)を維持し続けることを明らかとしました(図2)。スフェロイドの組織的機能維持・長期生存性にとって重要かつ必要不可欠な課題は細胞への周囲からの栄養分の補給と酸素の供給です。
  今後は、物質透過性に優れた細胞の3次元足場材料技術、血管誘導の技術とも連携を密接に図り、栄養血管を誘導できる再生臓器(肝臓・すい臓)とcell therapy(細胞治療)の要素技術の開発を目指します。さらに、ヒト細胞を用いた各種薬物・環境ホルモンのスクリーニングなど前臨床試験法への応用を目指します。

図1
図2
図1  ナノ厚さを有する高分子ブラシ表面のマイクロパターニングで作成する細胞アレイ培養基板.
図2  薬物代謝−(P450)酵素活性の経時変化とその集合形態による違い.


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