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特集 学際領域研究開発I
“ナノ・バイオサイエンスの新展開”

もっと速く骨を治す
− 組織侵入を促進する高生体親和性材料 −
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生体材料研究センター
組織再生材料グループ
菊池 正紀

  脊椎動物の骨は、主に水酸アパタイトという無機物とコラーゲンという有機物からできていて、体を支えたり、脳や心臓など大事な臓器を保護する働きを持っています。また、それと同時に体の中のカルシウムとリンの濃度を調整する働きを持っていて、「硬くて壊れにくい」イメージから考えられているのとは裏腹に、他の組織と同じように毎日少しずつ造りかえられています。だから、骨折をした時でも、ちゃんと繋いでおけば元の通りに治るのです。
  しかし、病気や怪我などでたくさんの骨が失われてしまうと、そこを元通りに治すためには骨の再生を助けるものを補填しておく必要があります。現在、最も多く使われているのは自分の腰の骨ですが、健康なところを手術して骨を取ってくるわけですから、後で慢性的な痛みが残る事も多い上、失われた部分を埋めるのに十分な量の骨が採取出来ないという問題があります。
  これらの問題を解決するため、細胞や組織が入りやすく、骨が治りやすい材料として、スポンジのように軟らかい、これまでにない多孔質人工骨材料を開発しました。
  この材料は、水酸アパタイトとコラーゲンが、骨と同じようにナノメートルのオーダーから規則正しく並んだ「自己組織化ナノ複合体繊維」を主成分としています。これとコラーゲン溶液を混合してゲル化すると、複合体繊維がゲル中に均一に分散したゼリーのようなものができます。このゼリーを凍結したのち乾燥すると多孔体が得られます。この時、凍結温度を制御することで穴の大きさを変えることができます。得られた多孔体に架橋を加えると、強度を上げると同時に、体の中での分解速度を制御することができます。
  この多孔体は、乾燥した状態では硬いのですが、濡れた状態にすると図及び表紙写真上のようにスポンジのような弾性を示します。ですから、体の中に埋める時は常にスポンジのような振る舞いを示し、穴の中にどんどん血液や細胞が侵入します。この材料は、現在ペンタックス(株)が実用化中です。

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図  スポンジのように軟らかく弾性のある人工骨.


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