無限の広がりを予感させる
新規ナノチューブ研究

フラーレンナノチューブの常温液相合成
− フラーレン分子でナノチューブを作る −

エコマテリアル研究センター
エコデバイスグループ

  日本板硝子株式会社

宮澤 薫一

 

湊 淳一

 

吉井 哲朗


 フラーレンナノチューブ(fullerene nanotube、FNT)とは、C60やC70(図1)などのフラーレン分子(炭素原子からなるカゴ状分子)で構成される中空な結晶性の繊維のことを指します。FNTは、フラーレンナノウィスカー(fullerene nanowhisker、FNW、フラーレン分子から成る細いひげ結晶)を合成する際に、私達が2004年に発見したものです。
 FNTの最初の例は、C60ナノウィスカーを合成するときに見出したC60ナノチューブです。C60ナノチューブは、C60の白金誘導体を含むC60飽和トルエン溶液とイソプロピルアルコール(IPA)を用いて液-液界面析出法で合成した、直径が数百ナノメートル、長さが数マイクロメートルの中空針状結晶です。第2の例であるC70ナノチューブは、C70飽和ピリジン溶液とIPAの系を用いて作ることができます。表紙写真下及び図2に示すように、C70ナノチューブは、数百ナノメートルの外径を持ち、赤褐色の金属光沢を呈し、数ミリメートル以上に成長します。図3の透過電顕写真に示すように、明らかな中空構造が観察されます。室温乾燥したC70ナノチューブは面心立方構造であり、チューブの成長軸方向に、C70分子が密に並んだ構造を持つことが分かりました。同様に、安価なフラーレンのすすを用いて、C60-C702成分系FNTの合成に成功しました。FNTの大きな特徴は、個々のフラーレン分子の性質がチューブ全体の性質に反映されることです。  
 今後、基礎研究を進めることにより、環境、エネルギー、エレクトロニクス、医薬品、MEMS分野など無限の応用を開拓することができます。本研究成果は、各種フラーレン分子の特徴を生かした多様なFNT合成の出発点となるものと期待されます。

図1 C60とC70の分子模型.

図2 C70ナノチューブの光学顕微鏡写真.



図3 C70ナノチューブの透過電顕写真.


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