無限の広がりを予感させる
新規ナノチューブ研究

外径6nmの白金ナノチューブ
− 燃料電池用触媒などへの応用に期待 −

宮崎大学工学部 CREST
(旧 無機材質研究所)

木島 剛


 近年、水素と酸素から電気をつくるクリーンなエネルギー源である固体高分子燃料電池を搭載した乗用車の開発に期待が高まっています。しかし、その普及には価格や性能の面で大幅な改善が必要であり、活性の特別に高い白金触媒をつくって、その使用量を減らすなどの技術的飛躍が求められています。
 私達は、これまで、界面活性剤分子でできた棒状の集合体を鋳型として新規素材をつくる研究に取り組み、希土類酸化物を骨格とする内径3nmの細孔をもつメソ多孔体や外径6nmのナノチューブ、同様サイズの高分子ナノチューブなどの新物質をつくってきました。しかし、金属については、金属原子が凝集しやすい性質があるため、最近まで外径10nm以下の極細の金属ナノチューブは知られていませんでした。また、界面活性剤を鋳型として利用した合成では、一種類の界面活性剤を用いるというのが一般的でした。
 これに対して私達は、二種類の界面活性剤を組み合わせた鋳型を用いる独自の方法を考えだし、直径2nmのDNA分子がちょうど入る程度の極微細な孔をもつ、外径6nmの白金ナノチューブを合成することに成功しました(図1)。また、モデル計算を行った結果、二種類の界面活性剤分子が寄り集まって蜂の巣状の液晶をつくり、その環状の隙間でチューブが生成することもわかりました(図2)。
 触媒としての白金微粒子は、粒子の露出面の原子配列や原子の欠損・変位などの格子欠陥がその活性に影響することが知られています。したがって、白金ナノチューブもその特異な形状に起因した触媒能を発現する可能性があり、とりわけ通常の粒状触媒と異なり、チューブ内壁凹面が関与した触媒活性の増大が期待されます。このため、白金ナノチューブは、燃料電池の電極触媒としての白金利用率の飛躍的な向上が期待できるほか、自動車排ガス浄化、石油化学、合成ガス製造、医薬・油脂製造における触媒などへの応用が考えられ、目下、収率の向上など合成条件を確立する研究をさらに進めています。

図1 白金ナノチューブ.

図2 液晶鋳型モデル.


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