無限の広がりを予感させる
新規ナノチューブ研究

高温測定に最適な
ナノ温度計の開発
− 酸化物ナノチューブの新しい応用 −

物質研究所
超微細構造解析グループ

Yubao Li

 

板東 義雄


 カーボンナノチューブ内に含まれた液体ガリウムは外気温度により膨張・収縮し、液柱の長さを電子顕微鏡を用いて測定することにより温度が測定できます。液体金属を含んだナノチューブはナノ温度計と呼ばれ、ミクロン以下の局所空間の温度計測に利用できます。しかし、カーボンナノチューブは大気中約500℃以上の高温で容易に酸化し、チューブ壁の構造が壊れてしまいます。このため、カーボンナノチューブを用いたナノ温度計は大気中での高温計測には適用限界があります。一方、酸化物は大気中で高温でも安定な材料であるので、もし酸化物ナノチューブができ、チューブ内に液体金属を注入できればカーボンナノ温度計と同様に、酸化物ナノ温度計として利用できると期待されます。最近、私達はMgO、In2O3、SiO2などの各種の酸化物ナノチューブの合成に成功し、チューブ内に液体ガリウムや液体インジウムを包含した酸化物ナノチューブのナノ温度計を開発しました。
 図1は単結晶MgOナノチューブの電子顕微鏡写真です。金属Mg粉末と酸化ガリウム(Ga2O3)粉末を真空中で1300℃で約1時間反応させると、図1のような径が約30〜100nm、平均長さが数μmのMgOナノチューブが合成でき、その中に液体ガリウムが注入されていました。電子回折図形や格子像の観察から、生成したMgOナノチューブは単結晶(チューブの成長方向は立方晶の[100]方向)であることが確認されました。単結晶MgOナノチューブの合成の成功は今回が世界初です。特徴的なことに、MgOナノチューブの断面形状はサイコロ状の四辺形であり、しかもチューブ内の中空の形状もまた、チューブ外形に沿った四辺形をしています。円筒状の外形をしたカーボンナノチューブの形状と大きく異なります。チューブ内に閉じ込められた液体ガリウムはカーボンナノチューブの場合と同様に、温度変化による体積膨張・収縮を示すことが明らかとなりました。
 図2はチューブ内に液体インジウムを含んだSiO2ガラスナノチューブの温度変化を示したものです。SiO2ガラスナノチューブは写真に見られるように液体インジウムが詰まった大きな貯め部(ナノボール)があります。また生成したSiO2ガラスナノチューブは直径が30〜120nmで、その長さが約1mmと極めて長繊維でかつ1方向に配向して成長しているのが特徴です。今回の酸化物ナノチューブを用いたナノ温度計の開発の成功により、ナノ温度計の応用がさらに拡大すると期待されます。

図1 単結晶MgOナノチューブの形状、チューブ内に包含された液体ガリウムとその格子像.
図2 SiO2ガラスナノチューブを用いたナノ温度計(チューブ内は液体インジウム).

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