無限の広がりを予感させる
新規ナノチューブ研究

カーボンナノチューブ中の
強磁性ナノワイヤー

− 磁気ディスクへの応用 −

物質研究所
超微細構造解析グループ

Dmitri Golberg

  板東 義雄

 強磁性を示すナノ構造物質の周期的配列の作製は高密度の磁気デバイス等への応用が期待されています。特に、バルクのFeCo合金は室温で大きな抗磁力を示すことが知られています。もしそれでナノワイヤーを創製できると、その小ささと磁気異方性から量子化された磁気ディスクとしてその記録密度を飛躍的に向上させることができると期待されています。今回、私達はカーボンナノチューブの中にFeCo組成を有する単結晶のナノワイヤー創製に成功し、その構造と磁気特性を解明しました。
 トルエンの溶液中で鉄を含んだ有機物 (Fe(C5H5)2とコバルトを含んだCo(C5H5)2)を等比の割合で混合し、その溶液を噴霧化し600〜800℃のアルゴンガス雰囲気中で加熱・熱分解させました。すると、直径が10〜20nmの多層カーボンナノチューブが生成し、チューブ内に黒いコントラストをしたナノワイヤーが生成しました(図)。格子像観察と組成分析からチューブ内に生成したナノワイヤー(直径が約5nm、長さが約50nm)はFeCo組成の合金であり、しかもその構造は体心立方格子の原子配列(b.c.c)を持つ単結晶であることがわかりました。さらに興味深いことに、金属ナノワイヤーとカーボンナノチューブの界面は整合して配列し、しかも1原子層レベルのステップ(階段)が顕著に見られます(右図の拡大写真)。この事実は、金属表面のステップからカーボンナノチューブのチューブ壁が優先して成長していったことを示唆し、FeやCoなどの遷移金属が何故カーボンナノチューブの触媒として有効に働くかを示す実験的証拠として重要です。最近、遷移金属粒子表面のステップが活性点としてカーボンナノチューブの成長を促進するという成長理論が報告されましたが、本成果はその理論を裏付けるものとして注目されます。
 合成されたFeCoナノ物質の磁気測定をSQUIDで行うと、室温で928エルステッド(Oe)の極めて高い抗磁力を示すことがわかりました。この値は、FeCoバルク材の抗磁力に比べ3桁以上も高いのが特徴です。カーボンナノチューブ内に包含したこのような新しいFeCoナノワイヤーは、データ貯蔵デバイスや高感度磁気センサー並びに複写機用磁気インクの作製等において将来広く用いられると期待されます。

カーボンナノチューブに閉じこめられたFeCo強磁性単結晶ナノワイヤー.右側の拡大写真は、合金単結晶上に1原子レベルのステップを示す.このステップからカーボンナノチューブのグラファイト層が成長している.

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