定常磁場の国内記録を更新する
37.9テスラの発生に成功

− ハイブリッドマグネット用内挿水冷銅マグネットの開発 −

強磁場研究センター
磁場発生技術グループ

浅野 稔久


 物質や材料の性質を調べる手段として強磁場を用いることは極めて有用で、強磁場を発生するための電磁石(以後マグネットと表記します)の高性能化の努力が続けられています。発生磁場の強さでは瞬間的に強磁場を発生するパルスマグネットが有利ですが、定常的な強い磁場は超伝導マグネットの室温空芯部に常伝導のコイルを直接水で冷やしながら大電流を流す水冷銅マグネットと呼ばれるマグネットを組み合わせて発生します。このハイブリッドマグネットで発生した最高記録は、当機構で発生した37.3T、世界最高記録は、米国・国立強磁場研究所で達成された45.1Tです。
 当機構の水冷銅マグネットは図1の様なビッター盤と絶縁膜を積層したビッター型コイルです。強磁場を発生するとき水冷銅マグネットは大電力を消費して発熱するのでコイル内部には大量の流水で導体を直接冷却するための水路が不可欠です。強度限界に近い電磁力を受けるこのコイルの発生磁場の向上には、当機構で開発された高強度高導電率銅銀合金板材は大きく貢献しています。この材料を用いたマグネットの発生磁場をさらに高めるために電力、温度および電磁力の許容範囲内で、最大の効率を目指してマグネットの同芯分割数を増やし電力の分配とビッター盤の電流密度をより細かく調整しました。締め付け用のボルト孔の配置と冷却効果の改良も加えました。これらのビッター盤を用いてコイルを作り図2のように連結して運転した結果、ハイブリッド運転で有効室温内径32mmの空間に37.9Tを発生しました。磁場の強さを0.5T以上向上させるだけでなく、通電電力は従来の14.33MW(メガワット)から13.35MWと約1MW省電力が可能となり、より強い磁場をより長時間発生させることが可能となりました。
 強磁場研究センターでは、現在ハイブリッドマグネットを含む各種強磁場マグネットを共同利用施設として外部機関に広く開放しており、今回開発したマグネットも外部ユーザーに提供しています。



図1 ビッター盤構成比較.

 

図2 同心多層コイル構成比較.



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