ものづくり最先端II

準結晶を前駆体とした触媒の開発
− 高活性、高耐熱性銅触媒を一例として −

材料研究所
非周期系材料グループ

 

東北大学
多元研

蔡 安邦

  亀岡 聡

 準結晶は結晶でもアモルファスでもない新しい物質です。結晶では許されない5回対称性をもつために、構造に起因する新規な物性が期待されます。しかし、原子の配列に周期性がないために通常の金属に比べて極めて脆い性質を有しており、材料的には大きな欠点となっています。しかし、高い表面積が求められる材料では逆に有利に働きます。一方、近年では燃料電池などにおける水素製造反応として注目されているメタノール水蒸気改質反応(CH3OH+H2O→3H2+CO2)に対して銅触媒が有効であることが知られています。しかし、銅触媒には銅粒子同士が焼結しやすいなど耐久性という問題を抱えています。我々はアルカリ水溶液で浸漬処理したAl63Cu25Fe12準結晶がメタノール水蒸気改質反応に対して高い活性・選択性および高い耐熱性を示すことを見出しました。
 図1に示すように通常の工業銅触媒は高温(>300℃)においてCuの焼結による活性の頭打ちを示すのに対して、Na2CO3水溶液で浸漬処理したAlCuFe準結晶触媒は高温においても活性が増大し続けます。大気中にて焼成を施した準結晶触媒では全測定温度範囲にわたって、さらに活性が増しています。浸漬処理・焼成した準結晶粒子の透過電子顕微鏡断面写真を図2に示しています。試料の内側(右)から準結晶(Qc)、緻密なAl2O3層(A)、CuとFeの複合酸化物層(B)の順に堆積しており、そして外側にはポーラス状のAl2O3(C)が形成されています。空気中の焼成によって明瞭なA層とB層が自然に形成され、触媒の活性・熱安定性を向上させると思われます。詳細は調査中です。試料の調製条件を調整することによって、低温(200℃)域においても高い活性が得られます。
 このような安価な原料と簡便な調製法を用いて、高活性、高耐熱性が達成できたことは、準結晶をはじめ、多くの金属間化合物を前駆物質とした触媒材料の開発は有望であると考えています。(本成果はJST-SORSTの一環として東北大学多元研 寺内正己教授との共同研究により得られたものです。)

図1 準結晶(Qc)触媒と一般銅触媒のメタノ−ル水蒸気改質における活性.
図2 浸漬処理・焼成を施したAlCuFe準結晶(Qc)粒子のTEM断面写真.


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