ものづくり最先端II

X線吸収微細構造
(XAFS)顕微鏡

材料研究所
高輝度光解析グループ

桜井 健次


 「ありのままの自然を正確に見ることこそが自然科学の原点である」(ガリレオ・ガリレイ)と言われるとおり、顕微鏡観察はあらゆる研究の基本です。光学顕微鏡を使うと被写体(試料)の細かな部分の色や形状の違いを画像として観察することができます。それでは試料上の場所による組成や化学状態、結晶構造等の違いを顕微鏡観察することはできないのでしょうか。私達は、最近シンクロトロン放射光を用い、組成の他、X線吸収微細構造(XAFS)の観察を可能とする新しい顕微鏡を開発しました。
 XAFSは、物質のなかの特定元素に着目し、その化学状態(価数等)や周囲の原子レベルの構造(原子間距離や配位数)を非破壊的に分析する方法としてよく知られています。バルク結晶だけでなく長距離秩序を持たないアモルファスやナノ結晶、超微粒子、クラスター等、最近のナノサイエンスで重要な対象の研究に適していることから、世界中の放射光施設で研究されています。ところが、この方法は本来均一な試料の構造を解析する技術であるため、材料の開発研究のように不均一系を扱うことが多かったり、不均一さそのものが興味の対象になる分野では、試料内のXAFSの分布が見える顕微鏡が求められていました。
 新しいXAFS顕微鏡(図1:NIMS独自のX線イメージング技術(特許第3049313号)を発展させたもの)では、およそ1cm角の試料領域を1000×1000(=100万)の区画に分割し、それら全ての区画のX線吸収スペクトルを同時に取得できます。総測定時間も10〜30分と、きわめて迅速です。従来は、小さなX線ビームを走査して1区画ずつ測定するしかなかったため、区画の数に比例した測定時間が必要であり、100万区画分のX線吸収スペクトルを測定することは到底現実的ではありませんでした。
 図2は、銅板の表面に生じたさび(緑青)の部分(領域1)で、銅の価数が大きくなっていることが、XAFS顕微鏡画像から得られる領域1と領域2の吸収スペクトルの化学シフトの違いから理解できることを示しています。また、この技術は、1枚の基板上に多数の異なる試料を配列させて優れた材料を探索するいわゆるコンビナトリアル材料スクリーニングの迅速化にも貢献しています。

図1 XAFS顕微鏡の原理.
図2 吸収端の化学シフトによる化学状態イメージングの例.


トップページへ