スクラップ原料で35mm厚の
超微細粒鋼板の試作に成功

− 数値解析シミュレーションを積極的に活用 −

超鉄鋼研究センター
冶金グループ

井上 忠信


 超鉄鋼研究センターは、数値解析技術を積極的に活用し、実機製造設備を用いて、従来の約1/10の直径1マイクロメートル(μm=1/1000mm)以下の超微細結晶粒組織からなり、従来の2倍以上の降伏強さを持つ板厚35mm、重量約90kgの厚板の製造に世界で初めて成功しました(図1)。
 鋼は多くの小さな結晶の粒の集合体であり、その結晶粒が小さくなるほど鋼の強度は向上します。一般に使用されている鋼の結晶粒は10μm以上であり、従来の1/10の1μm以下を超微細結晶粒と呼んでいます。これまで、小さなサンプルで結晶粒を超微細にできても、材料全体を超微細粒にすることは難しく、特に既存の設備能力で超微細粒試料を大型化することは極めて難しいと言われていました。しかし、造船、土木、建築などの分野では、今後の資源循環型社会に適した省資源かつリサイクル性に優れた25mm以上の大型高強度厚鋼板が望まれていました。
 同センターでは、これまでに微小試験片を用いた基礎実験により結晶粒超微細化の原理を解明し、この基礎原理を発展させ、大型材の試作を検討しました。まず、幾つかのアイデアを数値解析シミュレーションで検討し、装置への負荷、組織の予測、鋼板形状という視点で超微細粒厚板を創製できる製造プロセスを考案しました。しかし、新プロセス方案を実証するためには大型プレス機とともに精緻な加工技術を必要とします。そこで、(株)日本製鋼所室蘭製作所に委託し、同社において実生産設備である大型プレス機(図2)を用い、新プロセスを精度よく実現することにより、35mm厚の超微細粒鋼板の試作に成功しました。
 今回の試作材は、スクラップを原料とした連続鋳造材(王子製鉄(株)製)を用いております。スクラップ鉄のリサイクルは、我が国だけでなく世界においても今後の資源循環型社会形成や環境負荷低減において重要とされています。考案した微細粒化プロセスは、スクラップ鉄からでも製造可能なことを民間の実機製造設備で実証しました。
 今後は超微細粒鋼の様々な分野への利用実現に向けて、更なる大型の超微細粒厚板創製を行う予定です。

図1 超微細粒の大型試作材の外観. 右端が今回試作に成功した35mm厚の開発鋼板.
図2 超微細粒鋼板試作で使用された(株)日本製鋼所の大型プレス機.

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