ものづくり最先端

高品質粒界接合を用いた
超高周波検出素子の開発


 テラヘルツ(THz)帯の電磁波は、物質構造解析、電波天文学、X線に代わる安全な生体計測、爆発物検出などの幅広い応用が期待されていますが、発振や検出の難しさから現在のところ、他の周波数領域に比べ開発が大きく遅れています。THz帯電磁波の発振・検出法はいくつかありますが、超伝導現象を利用した方法はその中でも有力なものの一つです。しかし、酸化物超伝導体のデバイス応用はあまり進んでいません。これは主として材料的な問題、特に単結晶レベルの高品質な薄膜が得られないという問題に起因しています。
 この問題の克服のため、私達は従来の薄膜合成法の概念を打ち破る手法を開発してきました。これは試料表面に液相を共存させ、準平衡状態で薄膜を成長させるというものです(Tri-Phase-Epitaxy法、図1)。これまでこの手法を希土類123系超伝導体に適用し、極めて結晶性の高い単結晶レベルの薄膜作製に成功してきました。この手法を他の酸化物電子デバイス材料に広め、薄膜作製技術の新しいパラダイムを開く新技術として普及に努めているところです。TPE法の開発により、超伝導デバイスの実用化への道は大きく開かれました。今回私達は、方位の異なる単結晶を接合した酸化マグネシウムバイクリスタル基板上にこのTPE法によりNdBa2Cu3O7-y薄膜を成長させ、基板の接合部に粒界接合を作製し、さらに電子線リソグラフィー加工および集束イオンビーム加工を施しました。これにより幅数百ナノから数ミクロンの高品質なブリッジ状粒界ジョセフソン接合素子の作製に成功しました(表紙写真下)。高周波印加による電流−電圧特性に現れる階段状のマイクロ波応答ステップ(シャピロ・ステップと呼ぶ)が明瞭に観測されました(図2)。測定範囲をさらに広げると、驚くべきことに4.4mVまでステップが観測されていることから、2THz以上の高周波に対しても応答すると予測されています。この高い特性は極めて高品質の超伝導薄膜を用いることにより実現されたものと考えられます。
 これらの結果から、素子の再現性・信頼性・耐久性に優れた粒界ジョセフソン接合素子が再現性良く作製可能であることが実証されました。液体窒素温度以上で動作可能な高周波検出器・発振器、電圧標準、SQUID、論理デバイス等、さまざまな応用が考えられ、これまで進んでいなかった高温超伝導体の実用化が一気に進展することが期待されます。

図1 TPE法によるRE123単結晶薄膜作製プロセス; a) 基板にRE123シード層を蒸着; b)共存液相を蒸着, シード層と液相が準平衡状態に; c)準平衡での単結晶薄膜成長; d)化学エッチングによる固化した液相の除去.
図2 作製された粒界接合の電流電圧特性. 0.24THzのマイクロ波照射周波数によるシャピロ・ステップ(矢印)が明瞭に観察された. 右下は超広帯域性の平面型対数周期アンテナ付き接合.

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