ものづくり最先端

量子・古典融合型分子動力学法
− ソフトをインターネットで公開 −

計算材料科学研究センター
第一原理物性グループ

大野 隆央


 現実の複雑な物質系では、ナノメートル程度の微小な領域での原子結合の切断や原子結合の組み替え(化学反応)がマクロレベルの性質と深く結びついて大きな影響を及ぼすことが多々あります。半導体素子の動作時での変形や我々の体内での酵素反応などもその一例です。ナノメートル領域での原子の挙動を正確に解析するには、量子力学に基づいて電子の状態から計算する必要があります。しかし量子力学に基づく計算は計算量が膨大になるため、半導体素子や酵素分子の全体を解析することは難しく、複雑な現象を理解する妨げになっています。
 私達は亀裂先端や酵素反応の活性部など注目する領域だけを量子力学で解析し、残りの領域を古典力学に従って解析することで計算量を大幅に減らし、亀裂先端での原子結合の切断や活性部での化学反応が半導体素子や酵素分子の全体に与える影響を解析できる計算手法を開発しました。2003年12月から、この量子力学と古典力学を融合した分子動力学法ソフトウェア(CAMUS)をインターネットで公開しています(http://matex.nims.go.jp/camus/)。可視化ソフトウェアと組み合わせれば、亀裂が伝搬する様子(表紙写真上)、半導体表面に付いた原子の挙動、カーボンナノチューブが自己組織化する様子などをコンピューターグラフィクスで表示することができます。設計段階で半導体やバイオ新素材などの性能を確認し、開発の効率化に役立つものと期待しています。今後、有限要素法も含めて量子力学や古典力学などを自在に使い分け、マクロレベルの製品や現象をナノメートルの微小領域の変形や挙動から解析できるシミュレーション・ソフトウェアの開発を目指しています。
上から、(a)亀裂の初期構造、(b)亀裂が進展した構造、(c)進展方向が変化した後の構造.

トップページへ