新年の挨拶

 

新年おめでとうございます。

岸 輝雄


 科学技術を取り巻く環境は変化しています。本年9月、京都において第1回の科学技術と社会フォーラム(Science and Technology in Society Forum:STSフォーラム)が開催されました。これはスイスで毎年行われるダボス会議の科学技術版です。政界、官界、産業界、学界から独立した個人の資格で、個人の意見を述べることを前提に約500人が参加しました。海外からも20数カ国、約150名の参加者がありました。
 この会議で最も重要なことは、副題として用いられた「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(科学技術の光と陰 Lights and Shadows)」にあり、陰(Shadows) を前面にたてて執り行われたことです。
 環境問題、人口問題、南北格差問題等、一国では解決し得ない科学技術の負の遺産については今までにも議論されてきましたが、本格的に課題解決のための対話を行うことが我が国の主導で始められたことは意味のあることといえます。石油、資源等の枯渇は以前から論じられてきたにもかかわらず、また一方で京都議定書の批准が思わしくない状況の中で、まさに京都でこの会議を3回続けるということです。今回の会議では、明確な結論とか提言はなされていませんが、各国間の情報の循環の重要性が指摘されました。今後に繋がる石杖が築かれたといって良いでしょう。
 この会議の2日目の夕刻に、ナノテクノロジーのセッションが持たれました。エレクトロニクス分野、特にスピンエレクトロニクス分野等において、また癌の撲滅を試行したDDS(ドラッグデリバリーシステム等)において、明るい光の部分が取り上げられていました。一方、ナノ粒子、ナノチューブの安全性に関する不確定性の指摘もあり、今後充分に環境、人体への影響を確認しつつ、ナノテクノロジーの研究を進めることに理解の一致が見られ、国際的課題としての対話の継続が合意されました。
 このように科学技術の環境も次第に変化し、先端科学技術の発展と持続的な社会を継続するための課題の調和が要求される時代となってきました。独立行政法人としてNIMSも次期の5年間はナノテクノロジーに大きく特化することが要請されています。正確にはNanotechnology Related Materialsという表現がより適切かと思います。STSフォーラム等における議論を通しても判ることですが、NIMSの当面進むべき方向は、ナノテクノロジーを活用した持続社会形成のための物質・材料科学(Nanotechnology Driven Materials Science for Sustainability)です。この大きな方向にIT、エレクトロニクス、バイオ、環境・エネルギー、そして安全安心に資する物質・材料研究が含まれているといえます。文部科学省に関係するNIMSのミッションが、これらの内容を含んだ基礎・基盤研究にあることは言うまでもありません。ここでいう基盤研究は共通基盤技術、大型施設を用いた研究、多くの研究者が集団で解決する研究を意味しています。
 次期に向けて少し忙しくなりましたが、第1期の大きな成果をより一層確かなものにし、慌てることなく次の期に進めていくことが本年の課題といえます。
 本年もまた、国内外から広くご支援をお願いするとともに、皆様のより一層の発展をお祈りいたします。

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