データ取得、データベース発信、国際標準化活動

国際標準化研究

材料基盤情報ステーション
極低温材料グループ
緒形 俊夫


 NIMSにおける国際標準化研究は、プレスタンダート化事業として新材料の応用・実用化に必要となる新評価方法の開発とその国際的な標準化を推進することを目的としています。特に、@開発した新材料と新評価法の公知と普及、A国際標準化活動における日本の貢献度の向上、B標準化とりまとめ活動による国民への貢献は、国際標準化研究の重要な業務と言えます。
NIMSの役割
 NIMSでは、中期計画に知的基盤の充実として「プレスタンダート化事業の推進」を掲げ、新材料の応用・実用化に必要となる新たな評価方法の開発とその国際的な標準化を推進しています。また、信頼性のある各種評価法をVAMASや国際標準化機構(ISO)、国際電気標準化会議(IEC)に提案することを目標に、これら標準化事業において、公的中立機関として我が国の材料情報の中核としての責務を果たそうとしています。NIMSとしては、今後、国際標準に関する国際的な発言力を増し日本の意向を主張するためには、日本としてall Japanの体制を材料に限らず整備すること及び発言の基になるデータを充実させることが重要と考えています。
VAMAS
 VAMAS(Versailles Project on Advanced Materials and Standards:新材料と標準に関するベルサイユプロジェクト)は、1982年のG7サミットで合意された国際研究協力の一つで、先進材料の標準に関する国際協力を通じて、国際標準化を促進し先端技術製品の貿易を活性化しようとする活動です。得られた成果は、ISOやIECへ提供されることにより国際規格となります。国際規格が成立するまで数年を要することから、活動を始めて10年でやっと成果が出始め、約60のISOや米国試験・材料協会(ASTM)規格の作成に貢献しています。近年、VAMASの国際的評価が高まるとともに、ISOとの連携も強まり、相互の成果を尊重するリエゾンが結ばれるなど、VAMASの成果に基づくISO化の促進が図られ、図1に示すように、VAMASでの国際ラウンドロビンテスト(共通試料を各参加機関に配り試験結果を比較する試験)の結果をとりまとめ、技術移転評価文書(TTA)として提案することで、審議の時間を短縮できるようになっています。 VAMASには、図2に示すように、表面分析、セラミック材料、高分子材料、生体材料、データベース構築、金属基複合材料、超伝導材料、極低温構造材料、薄膜、高温脆性材料などの18の技術作業部会(TWA)があります。各TWAには日本国内をとりまとめるキーパーソンがおりますが、NIMSでは、材料基盤情報ステーションを中心に世界的にポテンシャルのあるセンターやステーションが対応し、4つのTWAでNIMS関係者が国際議長を務めています。さらにNIMSは、国内のキーパーソン、VAMAS運営委員及び国際標準関係者を委員に迎えたVAMAS国内対応委員会を組織し、国内の標準化研究活動をとりまとめ、VAMAS国際共同研究の場での日本の貢献を審議するとともに、新TWAの提案を行おうとしています。VAMASと連携した新材料及びその試験法の国際標準化に関する積極的な活動による研究成果と協力体制は、ISO/ IECにおける日本の発言力の増強につながり、日本主導の規格の提案も容易となります。それは国際標準の提案には、十分な裏づけとなる研究データや国際的な協力関係の育成が必要で、いきなり標準の委員会の場に提案しても審議の対象とする賛同すら得ることは難しいからです。
 VAMAS運営委員会は、G7各国とEUの主要材料研究機関の所長や科学政策担当政府関係者で構成され、NIMSからは八木材料基盤情報ステーション長が委員として参加しています。2002年は日本で開催され、NIMSがホストになり、2003年の運営委員会は、オランダの欧州共同研究センターで開催されました。委員会では、VAMASの活動戦略として他の国際標準団体との提携や情報交換、今後の新材料の標準化領域として各国が高い関心を示しているエコマテリアルやナノマテリアルの新規TWA提案や生体材料TWAの再編成等についても審議され、日本のポテンシャルを踏まえた積極的な討論を行いました。
VAMASの成果
 日本におけるVAMAS活動の最大の成果は、国際規格の制定数よりむしろ国際規格の提案から成立に向けての体制・ネットワークを維持していること、そしてVAMAS国内対応委員会を組織し国際標準化活動に日本として対応する足場を築き、戦略が整いその役割を十分発揮できる時が来るまで、国際社会における橋頭堡を保っていることです。
国際標準化活動の課題
 国際標準化活動の課題は、国際標準の提案から成立まで、通常5年程度かかるため、国際的な責任を持ってこれに対応する必要があります。ところが、ここ数年企業の研究所は削減され、議論の元になるデータが減るとともに、人材もいなくなりつつあります。これは、その活動が周囲に評価され難いことと、一人一人の力では弱いからです。しかし、米百俵よりも教育の方が大切なように、目の前の利益よりも欧米の文書体系や技術に封じ込まれていない将来の市場の確保や国際社会における活動の可能性の方が重要なことは明らかです。今、公的機関のリーダーシップも標準の多くの分野で強く求められています。そしてNIMSが中心となり、国際標準化活動に携わる方や理解ある方の協力をとりまとめることができれば、国際社会においても大きな発言力になり、それが国全体の利益となり、国民や子孫にも貢献できると考えています。

図1 ISOの制定過程とVAMASとのリエゾン.

図2 NIMSの国際標準化推進体制と
VAMAS技術作業部会.


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