データ取得、データベース発信、国際標準化活動

宇宙関連材料強度データシート
− 日本の最先端技術の信頼性向上を目指して −

材料基盤情報ステーション
極低温材料グループ
緒形 俊夫


 国産宇宙ロケットによる宇宙開発や安全保障に向けての利用は重要な技術の一つで、世界で最先端の技術を有しそれを駆使できることは技術立国の日本にとって必須です。より基本的で大事なことは、必要とする品質の材料とその特性を必要に応じて入手できることですが、現状では不十分で諸外国に遅れを取ることが多くの分野で見られています。すなわち、技術導入や後追いの技術開発では、自分で検証しない部分や特性データがあるため、それを改良したり新しいものを開発することが難しいのです。
 国産宇宙ロケット開発では、H-IIロケットの8号機の事故調査をきっかけに、使用材料そのものの特性データが足りないことが明らかになり、信頼性向上のための一つとしてこのデータシート発行に至りました。
  事故調査の議論の中での指摘の一つが、破損の大きかった液体水素燃料ターボポンプ(FTP)やエンジンに実際に使われている材料のチタン合金やニッケル基超合金の強度特性のデータが整備されてなく、主にNASAやNRIMが発表していた同じ合金成分ながら鍛造比が異なる材料特性を参照していたことでした。
 国産ロケットに用いられる材料の強度特性データを緊急に取得するにあたり、極低温におけるチタン合金等のデータ評価に実績のあるNIMSにデータ整備が依頼されました。得たデータをデータシートとして公表する方が多くの人に材料が認知され役立つとともに、材料自体の信頼性が向上することになる、という従来のデータシートの実績があります。今後、宇宙関連材料の強度特性データの整備を進める中で、単にデータを取得してロケットの設計に用いるだけでなく、この実績を踏まえて、公開を前提としたデータの整備とデータシートの準備が始まりました。
 データシートは、表に示すように、まずH-IIのコストと性能を改良したH-IIAの確実な開発と信頼性向上のためにH-IIAロケットのFTPおよびエンジン材料から始まり、今後、機体部品材料に至るまで、チタン合金、Alloy718、銅合金異種接合材、超合金等のデータシートの発行を予定しています。これらの試験はNIMSと宇宙航空研究開発機構との連携の下で、NIMSを中心に実施しています。取得されたデータは詳細に検討され、破面写真データとともにデータシートとして公開されていきます。これらのデータは、既にH-IIAに使用される機器の設計や稼動条件に反映され5号機までの打ち上げ成功に貢献していますが、今後より対象材料が充実することからも、宇宙ロケットに限らず、先端材料のデータシートとして多くの分野で活用されることを期待しています。

表 データシートの発行計画.

図 H-IIAロケット4号機の飛行
(提供:宇宙航空研究開発機構).

 


トップページへ