データ取得、データベース発信、国際標準化活動

クリープデータシート
− 高温プラントの高性能化と信頼性向上 −

材料基盤情報ステーション
クリープ研究グループ
木村 一弘


 NIMSの前身である金属材料技術研究所は、実用耐熱金属材料の10万時間クリープ試験データを取得することを目的とし、1966年にクリープデータシートプロジェクトを開始しました。表紙写真上は試験に使用されるクリープ試験機です。高温(鉄鋼材料では約350℃以上)で力が加わると、材料は時間の経過に伴い徐々に変形し、最終的には破壊に至ります。このような現象を「クリープ」と呼びます。
 石油、石炭および天然ガスなどの燃焼による熱エネルギーを利用した火力発電は、現在、日本の総発電量の約55%を発電していますが、同時に日本国内の総排出量の約1/3に相当する多量の二酸化炭素を排出しています。地球温暖化の主要因であると言われている二酸化炭素の排出量を削減するため、発電機を回す蒸気の温度と圧力を上昇させることにより、発電のエネルギー効率を向上させることが求められています。そのため、耐熱金属材料が使用される環境は、年々高温・高圧の苛酷なものになりつつあり、優れた高温強度を有する耐熱材料の研究・開発が活発に行われています。
 ところで、クリープ変形や破壊が起こる高温で材料を使用する場合、材料のクリープ強度特性を理解して、部品や構造物を設計することが重要です。高温での許容引張応力は一般に、10万時間(約11.4年)でクリープ破断する応力に基づいて決定されます。そこでクリープデータシートプロジェクトでは、10万時間クリープ試験データを系統的に取得し、これまでに126冊(2004年3月末)のクリープデータシートを発行しました。さらに、高温での長時間使用に伴う耐熱金属材料の組織変化を系統的に調べ、微細組織写真集を作成しています。これらは、高温構造物の設計や維持管理、材料開発、規格制定などの基準参照データとして広く活用されています。また、2003年12月には、1969年に開始したボイラ・圧力容器用炭素鋼鋼板から採取した0.3%炭素鋼のクリープ試験の試験時間が30万時間(約34.2年)に到達しました(図参照)。
 高温・高圧の厳しい条件で使用され、特に高い安全性が要求される機械構造物では、許容引張応力だけでなく、微小領域の応力状態や変形挙動の詳細な解析に基づいた設計が行われています。しかし、系統的に取得された長時間クリープ変形データは、国内ばかりでなく海外でもほとんど見当りません。そのため、NIMSのクリープデータは、高温機器構造物の設計や長期使用部材の余寿命診断のための基盤的な材料強度特性データとして活用され、高温プラントの安全性・信頼性の向上に大いに貢献しています。

図 0.3%炭素鋼の30万時間クリープ曲線.


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